ただの雇われ。
だが、それ自体が目的の一環であった以上、ただこのまま終わらせる訳にもいかない。 日本の魔法使いたちが、認識面に斑が有り隙が多い事は、今事件への対応などである程度確認出来た。
そんな監察者としての視点を持ちながら、それだけではない自分に苦笑する。 作戦の概略は千草が立てたものであり、自身はある程度深くまで踏み込む為に雇用されていたに過ぎない。
たといそれが、つまらぬ意趣返しであると、そう理解しては居ても。
エヴァの望外の行動に紅潮していた思考の中で、ネギはふと重要な事に気が付いた。 「…アレ?
「そう言えば、そうよね。 エヴァちゃん、外に出らんないんじゃなかったっけ?」 今更になっての問い掛けに、エヴァはつまらなそうにフフンと笑った。
「マスター。 横島さんの事をそんな風に言われるのは…」 諌めた茶々丸の言葉に、その名に聞き覚えのある面々の意識が向く。
「マスター?!!」 茶々丸の警告の声。
「遅い。
遅延魔法だろうワードの解放。
逆に、エヴァは煙を切り裂く様に茶々丸と突進した。
周囲に意識を拡げた瞬間、明日菜の声が上がった。 「なっ?!」 続けて彼女のハリセンの、思い切り振り抜かれた鈍い風斬音。 「ぼーや!?」 真っ先に向かうのは最大戦力か、もしくはその逆との読みを外され、エヴァは慌てて彼の下へと走った。 「危ないっ、アスナさんっ!」 無効化が有っても、彼女とて殴られれば傷付くのだ。
脇腹への痛みに耐えながら、辛うじて放たれた雷の矢が、彼に一歩退かせる事に成功した。
そんな彼らを追撃しようと、地に手を添えたフェイトの口から呪文が零れた。
ギリギリ間に合った氷の盾が、ネギたちと石の槍との間を塞ぐ。
じろりとそちらを見遣れば、西の長の娘を含む3人の少女を、チャイナと忍者の二人が守る様に挟んでいる。 小太郎も何やら文句を口にして、千草を抱えてそちらにいた。
そんな面々の前に陣取った銃遣いと剣士とが、矢継ぎ早に追撃を仕掛けてくる。
その一連の流れを、飛んで来る銃弾と気刃とを躱しながら、脳裏へと記憶する。 それが若干の隙になったのは否めない。 「よそ見しながらとは余裕だな」 言葉と共に叩き付けられる殺気。 懐に入り込む小柄な影から、距離を取ろうと反射的に跳ねる。 そこに飛び込んで来る光の矢。
そんな彼を、創り出したらしい巨大な剣で、エヴァが躊躇無く真っ二つにした。 「やはり分が悪過ぎるね… 見るものはそれなりに見れたし、彼も子供と侮り過ぎた様だ。
そう言葉を残すと、フェイトの上半身と下半身がパシャっと弾けた。
斬った感触と今の様子とに、エヴァは舌打ちをする。
「ちっ…
忌々しさを押して、とにかく一同の確認をしようと振返る。 駆寄ってくる従者。
そして… 「ネ、ネギ?!」
殴り付けられた後背脇腹を押さえて痛みに呻くネギを、明日菜とカモが心配げに支える。 「茶々丸っ」 「はい」 指示を受けて、茶々丸は彼の体の検査に入る。 尤も、見ただけでも原因は明らかだ。
「おい、爺。 さっさと準備しろ!」 「何がどうしたと言うんじゃ?」 いきなり広がった影から出てきたエヴァの言葉に、訳が判らず学園長が聞き返す。 「その馬鹿を連れて行く。 さっさとしないとぼーやが死ぬぞ」 『死』の一言に、彼の雰囲気が切り替わった。
「よし、その魔法陣に入れ。 すぐ儀式に入るぞ」 「判った、急げっ」 その流れを取り残されたように3人は見遣っていた。
やがて、短くない呪唱が終わる。
「お、おい?」 「行くぞ」 「ちょっと待って下さい」 横島の当惑を無視した動きに、待ったを掛けたのは高音。
「なんだ?
「私もご一緒します。
その申し出に、確かに一理あるとエヴァは判断した。
その様子に、愛衣も名乗りを上げた。 「わ、私も」 「二人も三人も変わらん。
高音と愛衣をも伴って、今度こそ横島と影の中へと沈んで行く。 「出来れば、誰か手伝って欲しかったんじゃがなぁ…」 そう呟く学園長の前には、10万枚近い紙の山。 魔法陣をエヴァが出た直後から、判子を押し始めたソレの整理くらいは誰かの手が欲しかったのだ。
「連れてきたぞ」 「つか、何がなんだか説明せんか不良幼女っ」 べしゃりと川原に落されて、横島が抗議の声を上げる。 「横島さん、愛衣ちゃん」 その姿に、嬉しそうな声を上げたのは木乃香だ。 高音の名が無いのは、単に彼女の事を知らないからである。
そんな彼らに、続けて近付いてきた楓が茶々丸の膝枕で横たわるネギへと指差す。 「横島どの、今は危急の時故、一刻も早くネギ坊主を」 エヴァがわざわざ連れてきた事で、彼女はそれが出来る事に疑いを挟んでいない。 「お、おう…」 「これは… 魔法による石化、ですか?」 腰回りと左胸・左大腿部がまるまる石と化していた少年に、高音が痛ましそうな視線を向けた。
「そうだ。
「そんな…」 一気に進行するならまだしも、今のペースでは10分やそこらは確実に掛かる。
「なぁ。 横島さんに出来るんやったら、お願いや、ネギ君を助けたって」 縋り付いてくる木乃香の懇願。
「はぁ… なんだか判んないけど、このガキを治したらいいんだな?」 「そうだ、貴様ならきっと何とか出来る。 急げ」 言葉は命令なのに、その口調は請願だ。
そんな無造作で無遠慮な行動に、一瞬 少女たちの目がキツくなる。 だが、ネギに触れた文珠が、ぱぁっと輝きを放った直後にそれは和らいだ。
「出来るとは思っていたが、また随分と簡単に…」 エヴァの呟きは、少女たちの総意でもあろう。 ともあれ、ネギが助かったのは事実。
「良かった、ネギ先生…」 喜んで彼に抱き縋る少女たちの姿に、横島のこめかみがぴしりと青筋を立てた。 「く…
叫び出した彼の左右の手を、反射的に抑えた高音と愛衣の行動が無かったら、感動の場面がちょっとアレな事になっていたかも知れない。 いや、もう充分アレか。
「ちょ、放して、高音ちゃん、愛衣ちゃん。 俺は…」
そんな様子に、苦笑しながら木乃香が止めに掛かった。
「そゆうんもマイナスやで」 腰に左手を当て、右手の人差し指を振って、全身でダメ出しのリアクション。
「…そやけど、ネギくん助けてくれてホントありがとうなぁ」 途端に、横島は照れ臭そうに頭を振った。 「い、いや、まぁ… ほら、こんくらい、なんてこたぁないって」 キラキラした感謝の視線と、握って離さない柔らかい手とに、完全に拘束されている。 内心ではかなりの葛藤に揺れ動いていたが。
が、彼を知っている者には、充分な驚きだった。 「な…」 既に拘束の手が離れていると言うのに、いっかな暴走する気配が無い。 何よりもその事に驚いて、高音は固まっていた。
「だから、このかお姉様、なんです」 愛衣が苦笑して、そう呟いた。
そんな横島の前へ、小さな影が進み出た。 普段、女性以外の名前なぞロクに覚えたりしない横島だ。 だが、『カレ』を知った時が時だっただけに、虚ろな記憶の中からその名が出てきた。 そのおかげで、高音と愛衣の唇の柔らかさを堪能出来たのだ。 いっそ当然だったかも知れない。 「…おまえ、確かカモ、だったよな?」 「おっ、覚えててくれたんすか、兄さん?
カモのどこか舌舐めずりする様な言葉。 一度仮契約を失敗させている事もあって、済し崩しにでも引きずり込めればと思い立ったのだろう。
「ん?
「へっ? こっちが専門じゃないんで?」 とするとアレは賢者の石か何かか、などと呟き出すカモを無視して、横島はぐるりと周囲を見渡した。
身の内で邪さをたぎらせていて、ふと気が付いた。
「あれ、夕映ちゃんは何処行ったんだ?」 夕映の取った行動に気付く筈も無い。 …と言うか、彼ならまず逃げる事を当然の様に選択するから、文珠を使って立ち向かおうとしたなんて想像すら出来ないのだ。
誰へともなく出た言葉に、反応したのは木乃香。
「そ、そやった、横島さん。 お願いや、ウチと一緒にウチに来たって」 「ど、どうしたんです、このかお姉様?」 いきなりの慌てた様子に、愛衣が過剰に反応した。 彼女の知る木乃香は、何にも動じないと言うか、マイペースに人を引き摺ると言うか、そんな感じなのだ。
「ゆえ… ゆえなぁ… なんや来れへんようにしたったって、さっきの白い子が…」 横島たちにはすぐに理解出来ないその言葉に、のどかがビクっと反応した。
その『来れない様にする』と言う言葉に、考えない様にしていた最悪の想像が喚起される。 カモが言っていた様に、石にされているだけならいい。
ネギを抱き上げて明日菜が言う。
関西呪術協会の総本山は、慌ただしい気配に包まれていた。 「えっ? どう言う事?」 「恐らく、各地に赴いていた人員が予定より早く戻って来れたんじゃないかと…」 明日菜の疑問に刹那がそう答える。 その推察は正しい。
歩いて来る彼女たちを発見して、伝令が飛んでいたのだろう。
「みなさん、ご苦労様でした。
頭を下げた彼に、代表して答えるべきはネギだったのだが、さすがにまだ意識が戻っていない。 「それで、ネギ先生は大丈夫ですか?」 「えぇ、今は疲れて寝てるだけです」 明日菜の答えに、彼はホッとした笑顔を見せた。
そんな彼に苦言を呈したのは、この場で最も偉そうな最も小柄な少女。 「不甲斐ないにも程があるぞ、近衛詠春」 「エヴァンジェリン?!
「フン、まぁ一時的にでも自由になれるオマケ付きだったからな」 そんな軽口に答えつつも、もう一度彼は頭を下げた。
同時に、気を失っているネギも客間へと運ばせる。
のどかも付いて行きたそうにしたが、彼女にはもう一つ気掛かりな事があった。 「あなた方も、今日はここで休んで行って下さい。 部屋は用意させましたから」 そう言って歩き出した詠春へ、のどかと目配せしあった木乃香が声を掛けた。 「…あんなぁ、お父様」 さっきから見慣れぬ少年の手を取ったままの娘に、ソレを気にしていると気取られぬよう笑顔を向ける。 「何かな、このか?」 「ハルナとゆえ……ウチらと一緒に来た二人は…」 その問いに、彼の笑みがピシッと固まる。 同時に、木乃香と朝倉、のどかの顔に緊張が走った。 詠春が……明日菜たちの話では石化されたと言う彼が、自分たちを元気に迎えに出てきたから。
「眼鏡の少女……早乙女さんでしたか、彼女は無事です。
「じゃ、じゃあ、ゆえは…?」 詠春の言葉に、のどかが恐る恐る尋ね返す。
言い掛けて言葉を飲み込む。
「西の威信にかけて、必ず無事にお返しします」 言葉の意味する所に気付いて、のどかはフッと意識を失った。
【とにかく、続きをご覧下さい】
ぽすとすくりぷつ 原作を見る限りでは、この段階でのフェイトの目的って曖昧なんですよね。
そんな訳で、日本の魔法使い組織及び構成人員の調査・スカウトなど、を彼の目的に組み込んでます、この話の中では。
それにしても…
感想等頂けると、執筆の糧になります。 お手数でなければお願いします。
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