Q40 日本に住む外国人夫婦の離婚の手続
 
私たらは日本に住む外国人夫婦ですが、離婚することになりました。お互い離婚には同意していますが、日本で離婚の手続がとれますか。相手が離婚に同意しない場合には目本の裁判所を利用することはできますか。慰謝料や財産分与の争いについて目本の裁判所を利用することはできますか。
 
1、離婚の準拠法
 
日本では夫婦問で離婚の合意ができているときには役所に協議離婚の届出を提出すれば離婚することができますが、日本に住む外国人の夫婦の場合に同じように役所への協議離婚の届出の提出で離婚することができるでしょうか。これは離婚にあたってどの国の法律が適用されるかという準拠法の問題に深く係わっています。
我が国では、法例16条本文で法例14条を準用し、離婚の準拠法について、第一に夫婦の本国法が同一であるときにはその法律(共通本国法)により、第二にその共通本国法がない場合において夫婦の常居所地法が同一である時にはその法律(共通常居所地法)によるが、第三にそのいずれの法律もない時は夫婦に最も密接な関係のある地の法律(密接関連法)によるとされています。法例16条ただし書は夫婦の一方が日本人である場合の規定ですので、本問のように外国人夫婦の場合には適用されません。したがって、あなた方ご夫婦の本国法が同一であれば、準拠法はその国の法律になりますから、その本国法上協議離婚が認められている場合には、日本の役所で協議離婚の届出を受理してもらえます。この場合には、あなた方の本国法を認定するための国籍証明書等や婚姻の事実を明らかにする書類のほか、夫婦の本国法により協議離婚を日本の方式に従ってすることができる旨の証明書を提出する必要があります(ただし、あなた方が韓国人同士、台湾系中国人同士又は本土系中国人同士である場合には、協議離婚が出来ることがわが国の戸籍窓口で明らなので、この証明書の添付を要しません。ここにいう証明書とは本国の官憲が発行する証明書に限らず、出典を明らかにした注文の写しや当該国の弁護士の証明書でも差し支えありません。なお、離婚の方式は行為地法、すなわち日本法に拠ることもできるとされています(法例22条ただし書)ので、証明書の中で日本の方式に従ってすることができる」ことを積極的に証明してある必要はありません。
 
次に、あなた方ご夫婦の本国法が同一でない場合には、夫婦の常居所地法が同一であるときはその法律によることになります。常居所にとは、人が常時居住する場所で、しかも相当長期間に渡って居住する場所です。あなた方ご夫婦は日本に住んでいるとのことですから、これが常居所と認定されれば常居所地法である日本法によることになりますので、日本で協議離婚の届出が出せることになります。常居所の認定にあたっては、居住年数、居住目的、居住状況等を総合的に勘案するとされ、通達(平成元年102日付第3990号民事局長通達)によれば、永住目的や観光目的でない場合には通常5年以上、永住目的又はこれに類する目的の場合については1年以上の滞在が常居所認定の要件とされるとしています(詳細についてはQ32A参照)。なお在留期問の判断として旅券や外国人登録済証明書等が必要となります。
 
さらに共通常居所地法がない場合には、密接関連法によることになります。例えば、仮にあなた方夫婦の一方がわが国に常居所を有すると認定され、しかも他方の配偶者が我が国との往来があるものと認められるような場合には、日本法が密接関連法と認められるでしょう。ただし、この場合には、市区町村長は協議離婚の届出を直ちに受理することはできず、監督法務局長にその受理、不受理について伺いをし、さらに監督法務局長も@日本での夫婦の居住状況、A婚姻中の夫婦の常居所地、B夫婦問の未成年の子の居住状況、C過去の夫婦の国籍国、Dその他密接関連地を認定する参考資料を調査の上、法務省民事局第2課長あて照会をなすことになっています(「離婚の際に最も密接な関係がある地が日本であると認定する場合について」戸籍平成33)
 
2.日本での離婚の手続
 
夫婦問で離婚の合意がなされていても離婚の準拠法によれば裁判離婚しか認められていない場合や相手方が離婚に同意しない場合は、離婚の裁判を提起することになりますが、夫婦双方が日本で生活しているので、日本の裁判所を利用することができます(Q34Q38参照)
日本では調停前置主義が採られているので家庭裁判所に離婚の申立をすることになりますが(家事審判法18)、一般に調停離婚も当事者琴方の協議による離婚と考えられていますので、準拠法が裁判離婚のみを認めていて協議離婚を認めていない場合には調停離婚によることはできません。そこで離婚の合意ができている場合には、調停ではなく家事審判法23条による離婚の審判の申立を認め、同条の審判は裁判離婚のみを認める準拠法の方式に適うものであるとして審判がなされることがありますが(横浜家判平成3514日家月431048、渉外判例百選第364)、家事審判法23条による離婚の審判も裁判離婚とはいえずこれを適用すれば裁判離婚を命じる離婚準拠法適用の趣旨に反するという立場もあります(溜池良夫「国際私法講義」第2438頁以下)。審判離婚では裁判離婚を命じる離婚準拠法適用の趣旨に反すると認められる場合や離婚の合意に至らない場合には、地方裁判所に離婚訴訟を提起することになります。
 
 3.離婚に伴う財産分与請求や慰謝料請求
 
Q38で述べたように、国際裁判管轄については原則として相手方の住所によるので、夫婦の双方が日本にいる場合には、日本の裁判所を利用すること赤できます。そして離婚に伴う財産分与の請求の準拠法についてはQ38で述べたように、離婚の準拠法(法例16)によるとする立場が一般的です。また離婚に伴う慰謝料請求については離婚の準拠法(法例16)によるとする立場と個々の不法行為については不法行為の原因たる事実が発生した地の法律(法例11)によるとする立場に分かれています。したがって外国人同士の夫婦が離婚する本問では、夫婦の共通本国法がある場合には、財産分与請求及び少なくとも離婚を原因とする慰謝料請求について夫婦の共通本国法が適用されることになります。夫婦の共通本国法がない場合には、夫婦はともに日本で生活しておりましたので、常居所地法又は密接関連地法として日本法が準拠法となり、また離婚の原因となった個々の不法行為については不法行為の原因たる事実が発生した地の法律(法例11)によるとする立場にたっても日本法が適用されることになります。
ただし、財産分与や慰謝料の準拠法がそれらの離婚給付を認めない外国法になる場合には、法例33条によって公の秩序や善良の風俗に反するときは外国法を適用しないとされています。もっとも外国法で財産分与請求権を認めていなくとも離婚に伴う慰謝料請求を認める外国法はありますので、財産分与請求権を認めてないからといって安易に公序違反を理由として外国法の適用を排除するのではなく、慰謝料は財産分与と実質的に同一の結果を生じせしめるものであるから、諸般の事情からみて、外国法の下で支払われるべき慰謝料の額が我が国の離婚給付についての社会通念に反して著しく低額である場合に限り、その適用は公序に反するとしています(最判昭和59720日判時1132117、判タ539323)。これは旧法の韓国民法に関する判例で、現在の韓国民法では財産分与請求は認められています。
準拠法が財産分与や慰謝料請求を認める場合であっても、上記回の日本での離婚手続で述べたように、離婚の準拠法が協議離婚を認めない場合には、離婚と同時にこれらの離婚給付を請求するには審判の申立や離婚訴訟に併合して訴訟の提起がなされることになります。他方離婚が成立した後に離婚給付の請求をする場合には、日本法では慰謝料請求は訴訟の提起が認められますが、財産分与に関しては家事審判事項となっており(家事審判法91項乙類5)、家庭裁判所に調停又は審判を求めることになります。準拠法が日本法の場合には、Q38を参照してください。
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