事件・事故・裁判

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷
印刷

カルテ紛失:阪大に賠償命令「義務違反」で 大阪地裁

 大阪大歯学部付属病院(大阪府吹田市)がカルテの一部を隠ぺいや改ざんし、医療過誤訴訟の立証が困難になったなどとして、元患者の田中政春さん(70)=大阪市旭区=が阪大に慰謝料など1700万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が21日、大阪地裁であった。大西忠重裁判長は改ざんや隠ぺいは認めなかったが、「カルテの紛失で診療経過の報告ができなかったのは診療契約上の義務違反」として阪大に慰謝料30万円の支払いを命じた。

 原告側代理人の石川寛俊弁護士は「カルテの非開示に医療機関側の責任を認めた初の判決で、意義は大きい」と述べた。

 判決では、田中さんは92年1月、同病院であごのがんと診断され、手術や治療を受け、呼吸や摂食に障害が残った。97年に証拠保全を行ったが、92年1~11月分の入院カルテや手術記録が開示されなかった。田中さんが98年に提訴した医療過誤訴訟でも、病院側は一部カルテなどは「捜索中」として提出せず、訴訟は05年2月、最高裁で田中さんの敗訴が確定した。

 大西裁判長は「重い後遺症を患った原告が治療経過の報告を受けたいと考えるのは当然で、診療契約上の債務不履行にあたる」と判断した。

 病院は「判決内容を十分検討して対応したい」とコメントした。【遠藤孝康】

 ◇視点 後絶たぬ非開示 判決受け止めよ 

 カルテは、患者や家族が医療過誤訴訟を起こす際、貴重な証拠となる。問題のある医療行為を、患者がカルテなしに立証するのは困難だ。

 カルテは従来、医療事故に遭った患者が求めてもなかなか開示されなかったが、患者らが声を上げ続け、ここ数年で少しずつ実現し始めた。厚生労働省は患者の開示請求に原則応じることを定めた指針を03年から運用。05年4月、全面施行された個人情報保護法も開示義務を課す。カルテ非開示を「債務不履行」と断じた大阪地裁判決は、こうした流れをくんだとも言える。

 一方で、請求しても開示されないケースは今も後を絶たない。カルテ開示の相談にあたっている「医療情報の公開・開示を求める市民の会」の岡本隆吉副世話人は「開示の意識の低い病院が多い」と指摘する。医療関係者は判決を重く受け止めなければならない。【野田武】

毎日新聞 2008年2月22日 16時39分

事件・事故・裁判 アーカイブ一覧

 


おすすめ情報