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怖いギャンブル依存症 自然治癒ない進行性の病気

キーワード:心療内科

[更新] 2007年03月18日

 ■早期発見、相談がカギ

 四六時中、頭から〝そのこと〟が離れない。うそをついて得たカネを使い続け、借金が膨らむ。ギャンブル依存症は本人だけでなく、家族や知人など周囲にも経済的、精神的にダメージを与える。「意思の問題」ととらえられがちだが、精神科医で、「ギャンブル依存とたたかう」の著書がある作家の帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい)さんは「自然治癒しない進行性の病気」と指摘する。ギャンブル依存症は私たちにどんな変化をもたらすのか。それを断ち切ることはできるのだろうか。 (福間慎一)

 ●患者推定200万人

 帚木さんは2005年に通谷(とおりたに)メンタルクリニック(福岡県中間市)を開院して以来、ギャンブル依存症の患者を90人近く診断した。その前に副院長を務めた八幡厚生病院(北九州市八幡西区)時代を合わせると計約150人。「うち8割5分はパチンコやスロットが原因だった」という。

 もちろん趣味でパチンコやスロット、競馬などを楽しむ人は多い。どこからが依存症なのか。

 帚木さんのクリニックでは、米国で使用されているものを基本にしたチェック表で診断している。5点以上で病的賭博者、いわゆるギャンブル依存症と診断される。「診察に訪れる人はほとんどが10点以上。3点の人も放置すればいずれ5点になる。ギャンブル依存症は放置すると進行するのです」

 しかし、一般的には病気という認識が薄く、患者数の調査もない。帚木さんはこう推測する。

 「米国や香港など諸外国の調査では成人人口の1.5―2.5%という結果が出ている。パチンコ店が林立する日本の成人人口は約1億人。単純に、約200万人の患者がいると考えられる」

 ●脳内状態が変化

 依存症としては、アルコールや薬物依存がよく知られている。いずれも特徴として、ある物質や行動を渇望する▽対象への欲求が抑えられなくなる▽どんどん量が増える▽ほかのことに関心がなくなる▽断っているとイライラなどの禁断症状が出る▽障害や問題が出ているのに続けてしまう―などが挙げられる。

 さらに、依存が強まると脳内伝達物質の状態にも変化が表れる。新奇探求や報酬、行動の持続などに関係するドーパミンやノルアドレナリンが増え、行動の抑制をつかさどるセロトニンが抑えられるという。帚木さんは「まだ詳しいメカニズムは解明されていないが、意思の問題ではないことは確かだ」と話す。

 さらに、帚木さんはギャンブル依存症に共通する性格があることに気付いた。「カネを得ようとしてうそをつく。そしてカッとなりやすく、人情味もなくなる。依存していく過程で脳が機能的に変わっていくことを表しているといえる」

 ギャンブル依存がアルコールや薬物への依存と大きく違うのは、健康を害さない点だ。際限なくカネを借りてギャンブルを続けるため深刻な状況に陥る。帚木さんの患者では借金額が数百万円に上る場合が多い。退職金を全額つぎ込んだ上に2000万円の借金をして自己破産した例もある。

 ●肩代わりは禁物

 ギャンブル依存症に対して、周囲の人はどのように対応すればよいのだろうか。

 「やってはいけないのは、借金の肩代わりです。さらに『自分がしっかりしていなかったから』と悔やむ家族もいるが、ギャンブル依存症は誰でも、いつでも陥る可能性がある」。帚木さんは強調する。

 尻ぬぐいで一時的に借金は解消されても、依存症である限り、当事者はあらゆる手段でカネを手に入れ、再び借金を抱えることになるからだ。

 病気は進行性だからこそ、早期発見が大切だ。

 「家族だけではなく、職場の上司や同僚でも、不可解な早退や休みが増えたり、給料の前借りが目立つようなことがあれば、依存を疑う事ができる。職場の衛生管理の中でもギャンブル依存に留意した方がいい」

 異変に気付いたときは、各県にある精神保健福祉センターなどに問い合わせるのが得策だ。「医師の間でも十分に認知されておらず、センターなどから関心のある医師を紹介してもらう方がいい」と帚木さんは言う。

 残念ながら、この病気に特効薬はない。唯一の道ともいえるのが、当事者同士が経験を語り合い、ギャンブルから距離をおくよう励まし合う自助グループへの参加だ。

   ×   ×

 ロシアの文豪・ドストエフスキーもギャンブル依存症だったという。経験を基にした作品「賭博者」には、その心理が生々しく描かれている。

 主人公の青年はギャンブルを嫌悪していたが、初体験したルーレットで大勝する。その記憶が染み付いて次第にのめり込むようになり、負けても通い続けた。

 物語の終盤、すっかり身をやつした青年は友人に「あんなもの! すぐにでもやめますよ、ただ…」と虚勢を張る。

 遮るように、友人は続ける。「ただ、これから負けを取り返したい、というんでしょう?」

   ×   ×

 ■自助グループが“薬” 入院治療も 生活リズム取り戻す

 特効薬はなく、自然に治ることもない。そんなギャンブル依存症からの回復に効果があるといわれるのが自助グループへの参加だ。同じ境遇の者同士がすべてをさらけ出して語り合い、己を見つめ直す。ギャンブルへと向かう心を抑制しようという試みだ。また、八幡厚生病院(北九州市八幡西区)のやはた心身医療センターなどでは、禁断症状を乗り越えて生活のリズムを取り戻す入院治療にも取り組んでいる。 (福間慎一)

 ●自由に話し、聞く

 テーブルを囲んで10人が座った。若者も女性もいる。月曜の午後、福岡県内の病院にギャンブル依存症の当事者とその家族らが集まり、院内GA(ジーエー)と呼ばれる集まりを開いている。

 GAはギャンブラーズ・アノニマスの略。匿名を意味するアノニマスの名の通り、本名を明かさずに参加できる自助グループだ。順番にギャンブル遍歴や家族への思いなどを語り、集まった人々がじっと耳を傾ける。

 GAに参加する男性(51)はギャンブルを断って6年。「心を開き、同じ病気の人と支え合いたい」と考えている。

 -転落のきっかけは15年ほど前、パチンコで20万円ほど勝ったことだった。「あまりにも刺激的で心地よかった」。翌日から毎日のように通い始め、手にした20万円は一週間で消えた。ひたすらカネをつぎ込み「頭の中にギャンブル回路ができた感じがした」。

 妻には「仕事」と言って店に通い、「車の修理代が必要」と友人をだましてカネを借り、玉を打つ。消費者金融からの借り入れも膨らみ、借金総額は400万円を超えた。

 それでも「台の前に座るとすべてを忘れることができた」。仕事に行こうと思っていたのに、気付いたらパチンコ店の駐車場に車を止めていたこともあったという。

 2001年6月、親に連れられて病院を訪れ、ギャンブル依存症と診断された…。

 ●相談件数が急増

 この病気からの脱却は容易でない。ギャンブル依存を「脳が機能的に変化してしまったもの」とみる精神科医の帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい)さんは、治療法として「患者同士のミーティングなどを反復することで、何とかギャンブルに行くという習慣にブレーキをかけるしかない」と考えている。

 自助グループは各地にあり、九州でも各県と政令市の精神保健福祉センターで情報が得られる。相談件数も急増しており、佐賀県の同センターでは2003年度に7件だったものが、06年度は約200件に達しているという。あるGAに参加する若い男性は「自助グループに来て、自分とまったく同じ状況の人ばかりで驚いた。やっぱりこれは病気なんだと思えました」と口にした。

 病んだ心に気付くことこそが、回復への第一歩となる。

 ●入院原則3カ月

 菊陽病院(熊本県菊陽町)や大悟病院(宮崎県三股町)など、九州にもギャンブル依存の入院治療に取り組んでいる病院がある。このうち八幡厚生病院の心身医療センターには、多いときで5、6人が入院している。入院期間は原則3カ月間。「依存症に関する知識を身に付け、正常な生活リズムを取り戻すことが目的」と木村正美所長は説明する。開放病棟なので外出は自由だ。「回復には本人の意思が不可欠」との考え方に基づく。

 木村所長によると、入院から1週間ほどは、禁断症状のためにイライラや不眠、焦燥感などの症状が出る。落ち着いてくると、アルコール依存治療に準じたプログラムに沿って治療を進める。依存症に関する学習や運動、菜園での軽作業などのメニューがあるが、ここでも、治療の中心は患者同士が語り合うミーティングという。

 一方で、借金問題の解決にめどがつかないと治療に集中できないため、解決の側面支援もする。自己破産など複数の方策があることを説明し、行政や司法書士会などの相談先も示して本人に選択させている。自分の責任で解決することが大事だとして、家族には借金の肩代わりをしないよう求めている。

 退院後は一定期間通院し、経過を見る。しかし、そこまでしても「予後」は厳しい。01年-07年2月末までに入院した56人のうち、退院から半年の間に一度もギャンブルをしなかった人は44%で、GAへの継続参加も52%にとどまる。

 1年後にはさらに下がるといい、木村所長は「依存症は完治できない。常に自分を見つめ、1日1日の積み重ねで回復を続けるしかない」と話している。


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