美濃焼を代表する温かな「志野」と漆黒の「瀬戸黒」。二つの技法で人間国宝となった近代陶芸の巨匠荒川豊蔵(一八九四―一九八五年)の足跡をたどる大回顧展(二十四日まで)が開かれている岡山県立美術館(岡山市天神町)に足を運んでみた。
興味深かったのは、桃山茶陶の華でありながら途絶えていた「志野」を復興させた業績。瀬戸(愛知県)産と思われていた志野の古陶を見て、その土から美濃産と直感、岐阜県可児市の古窯跡から志野陶片を見つけた。彼と交友のあった備前焼の人間国宝金重陶陽(一八九六―一九六七年)もまた、古備前の名品を研究、桃山復興を果たした。
二人に共通するのは“古典”からその神髄を学びとり、創造力を加えて独自の世界を築き上げたところにある。
文学の世界に目を移せば、「源氏物語」が「紫式部日記」十一月一日の項に登場して今年でちょうど千年。われわれが最もよく知るこの古典も、平安王朝文学の素晴らしさに気づいた藤原定家(一一六二―一二四一年)らによって現代に受け継がれてきた。朝刊文化面に連載中の「命をつないだ人々」は、そうした功績者を紹介している。
先日、駆け出し時代の上司と久しぶりに酒を酌み交わした。酔うほどに、今自分が後輩たちに説いている記者心得の多くが、その人からたたき込まれたのだと思い出されてきた。来年創刊百三十年を迎える本紙にも長年培われた地方紙としての文化が宿っている。そのバトンの受け渡しに、少しでもかかわることができたらと思う。
(文化家庭部・金居幹雄)