病気療養中のキューバのフィデル・カストロ国家評議会議長が、同国共産党機関紙に寄せた書簡で、健康問題を理由に二十四日に予定されている国家評議会メンバーの改選で議長職に就かず、国家元首を引退する意向を明らかにした。
革命家チェ・ゲバラらとともに親米政権を打倒した一九五九年から約半世紀、社会主義国でこれだけ長期にトップの座に君臨した例はない。カリスマ指導者の引退は今後、内外に影響を与えないわけにはいかないだろう。
六二年にソ連ミサイル基地建設で米国が海上封鎖し核戦争直前まで至ったキューバ危機を含め、アイゼンハワーからブッシュまで十人の歴代米大統領と対峙(たいじ)した。しかし、キューバ側からのテロ行為はなかった。国内では人種差別の撤廃、女性の解放、教育やスポーツ水準の向上を実現したが食料不足、自由の制限などで米国への経済難民が続き「革命は意志ある者で続ける。去る者は去れ」と見切りをつける発言もあった。
二〇〇六年七月に腸の手術を受けたことと、実弟ラウル・カストロ第一副議長らへの権力の暫定委譲を発表して以来、公務から遠ざかっていた。書簡で「議長と軍最高司令官の職に就くことを望みも受け入れもしない」と引退を表明したのは、実質的な国家のかじ取りから離れて一年半強、混乱もなく、もう大丈夫と判断したのかもしれない。
書簡は「さよならは言わない。思想面で一兵卒として闘いたい」と述べ政治的影響力を残した。引退で直ちに国家運営などに影響が出ることはないが、いずれ国民を統合し引っ張っていく指導部の力は弱まらざるを得まい。革命路線を引き継ぐのか。その行方は国民の手に委ねられる。
高画質の映像を長時間記録できる高性能光ディスクの次世代DVDの規格をめぐり、東芝が「HD DVD」方式の事業から撤退する。これにより次世代DVDの規格は、ソニーや松下電器産業などの「ブルーレイディスク」(BD)方式に一本化される。
今回の規格争いは、かつて家庭用ビデオで起きた「VHS対ベータ」の対立が再現された。互換性のない製品が出回ることは、ユーザーにとって迷惑な話である。規格の一本化は消費者が買い求めやすい環境が整ったといえ歓迎できよう。
映画などの映像ソフトのBD規格化も一気に加速するだろう。そうなると決着のツケは消費者に回る。数年前から二つの方式の製品が発売され、東芝はHDのプレーヤー(再生専用機)だけでも全世界で約七十万台販売している。既にHD規格の機器を購入している人は、新作映画などを楽しめなくなり不満が高まりそうだ。
HDには低価格化が容易な強みがあり、BDは記憶容量が大きいなど、それぞれ優れた面があった。業界内で規格統一を図る交渉はあったが決裂し、両陣営が技術力や販売力を競ってきた。
規格争いは豊富な映像ソフトを提供する米国の大手映画会社を巻き込んで展開された。両陣営とも各社に支持の働き掛けを強め、一進一退の攻防が続いていた。だが、一月にワーナー・ブラザースが「HD陣営からの撤退」を表明したのを機に東芝の勢いがそがれ、事業継続の意欲がなえたようだ。
そもそも「VHS対ベータ」の対立を教訓に、製品の発売前に規格を統一すべきだったという指摘は多い。しかし、合議による規格決定の難しさは理解できる。研究者の開発意欲が衰え、技術の発展が阻害されかねない。競争に勝ち残った方に新たな市場が約束されるだけに、一歩も譲れないとする姿勢は仕方ないのかもしれない。
次世代DVD市場では、規格争いが買い控えにつながっていた。規格一本化により消費者に安心感が広がり、普及が本格化するとみられる。ただ最近はインターネット経由で映像などをダウンロードして視聴する人が増えている。規格争いで勝ったBDも、次はネットとの厳しい競争にさらされるだろう。
HD事業から撤退する東芝は、三月末をめどに販売を打ち切る。機器購入者への修理などのアフターサービスは当面継続するという。部品の保存などでどこまで東芝が丁寧に対応できるか、メーカーとしての責任が問われよう。
(2008年2月21日掲載)