石原慎太郎東京都知事が、経営難に陥っている新銀行東京の追加出資要請に応じる考えを表明した。黒字化を見通せないなら撤退すべきだ。損失額を膨らませて都民にツケ回ししてはならない。
石原知事は定例議会の施政方針演説で新銀行の再建に意欲を見せた。新銀行も四百億円の追加出資要請に加え、リストラを柱とする再建案を発表したが、組織を縮小しながら融資を増やし、利ざやを稼ぐことは容易でない。
むろん黒字化への展望は見えていない。これでは都民も納得しまい。
二〇〇六年三月期0・9%だった不良債権比率は〇七年九月中間期に10%へと上昇し、経営トップの交代も年中行事化した。累積損失九百三十億円、都が出資済みの一千億円も含め資本金の八割が失われた。
新銀行設立は石原知事が再選をかけた〇三年の選挙で公約にかかげ、〇五年に開業にこぎつけた。大手銀行の貸し渋りに苦しむ中小企業を助けるという触れ込みだったが、開業当初から赤字を垂れ流している。
債務超過の企業でも、日常的な取引や優れた技術力があれば「無担保・第三者保証なし」で融資する。この経営方針を貫くには、貸出先に行員が足を運んで経営実態を審査し、融資の可否を判断しなければならないのに、機械的に審査するスコアリングモデルに過度に依存し巨額の焦げ付きを招いてしまった。
石原知事は旧経営陣が常識はずれの経営をしたとして、責任を追及すると述べた。しかし、中小向け公的融資制度の屋上屋を架すという都庁内の慎重論を押し切って出資を最終決断したのは、知事自身ではなかったか。新銀行に強い発言力を持つ筆頭株主としての責任は免れない。
知事は「投資事業も積極的に考える」とも語っている。巨大都市・東京の資金吸収力を当て込んだ発言だが、新銀行の設立趣旨とかけ離れた再建策と言わざるを得ない。
〇七年九月中間期、新銀行の中小向け融資は三月に比べ百五十億円減った。零細企業の景況感悪化、審査の厳格化などによって貸付先が確実に細っている。大手銀の貸し渋りは徐々に影を潜め、地域金融機関はゆうちょ銀行の出現にもあおられて顧客争奪戦を繰り広げている。自治体が納税者にしわ寄せしてまで銀行経営する意義はもはや見当たらない。
都議会の自民、民主、公明の各党は新銀行の設立を後押ししてきたが、税金頼みの銀行に安易に追加出資を認めるわけにいくまい。都民への説明責任を果たすためにも、各党は「撤退」を議論の俎上(そじょう)に載せるべきだ。
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