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2008年02月21日(木曜日)付

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日銀総裁選び―国会での吟味は公開で

 次の日本銀行総裁にだれを選ぶか。政府は来週にも具体的な人選を固め、国会に示して同意を求める見通しだ。

 現在の福井俊彦総裁のもとで副総裁をつとめてきた武藤敏郎氏の昇格が取りざたされている。福田首相の決断が注目されるが、その前に国会での同意の仕方について、注文しておきたい。

 98年の日銀法の改正で政府からの独立性を強めた際、総裁らの人事には衆参両院の同意が必要になった。総裁は日本の金融政策のかじ取り役という重責を担う。国会がかかわることで、より中立性を担保しようとの目的だろう。

 与党が衆参両院で多数を占めていれば、国会の関与といっても首相の決定がそのまま通るところだろう。だが、参院で野党が多数を握ったいま、ひょっとすれば同意されない事態も想定される。今回の人事がいつも以上に注目されるのはそのためだ。

 与野党は混乱を避けようと、同意の仕方について議論を重ねてきた。その結果、本会議での採決の前に、衆参それぞれの議院運営委員会に総裁候補者を呼び、所信を聞くことになった。

 福井氏が任命された5年前には、そうした機会はなく、人事案をいきなり本会議で採決した。国会の意思は確かに反映しているが、その人物を本当に吟味したと言えるのだろうか。

 それを思えば、今回の与野党合意は大きな前進である。いわゆる「ねじれ国会」のプラスの側面として、このルールづくりは評価したい。

 ただ、解せないことがひとつある。せっかく委員会で所信を聞くのに、その模様は非公開とする方向で話が進んでいることだ。人事が本会議で議決されたあと、議事録を公開するという。

 理由ははっきりしないが、候補者の発言が株式市場などに影響を与えてはまずいと心配する向きがあるらしい。これはまったく理解に苦しむことだ。

 日銀総裁は国会に参考人として呼ばれ、金利政策や経済の現状認識について意見を聞かれることはよくある。毎月の記者会見でも同様だ。こうした場での発言などを通じて、総裁は「市場との対話」を重ねていく。

 不用意な発言で市場を混乱させるようなことでは、それこそ通貨の番人としての適格性が疑われる。正式に任命される直前の候補者であっても、それは同じことではないのか。

 米国の連邦準備制度理事会の議長人事では、議会の承認を受ける際、公聴会での証言が義務づけられている。

 日本でも、総裁候補の発言は公開とすべきだ。将来的には、専門知識を持つ議員がいる財務金融委員会などでの質疑に移行させることも考えていいだろう。

 政党の側は、政局にらみの思惑を絡めず、候補者の適格性を真摯(しんし)に検討して賛否を判断すべきだ。政争の具にするようでは国民の信頼は得られまい。

パキスタン―この民意を安定に生かせ

 パキスタン総選挙で野党勢力が大勝した。ムシャラフ大統領を支えてきた与党は惨敗に終わった。

 第1党に躍り出たのは、暗殺されたブット元首相が率いていたパキスタン人民党だ。シャリフ元首相のイスラム教徒連盟シャリフ派がこれに続いた。

 故ブット氏への同情が人民党への支持を押し上げたとしても、9年に及ぶムシャラフ政権は、国民から「ノー」を突きつけられたといっていい。

 大統領に批判的な最高裁長官をクビにし、抗議する弁護士らを片っ端から逮捕する。そうした強権的な手法が国民に受け入れられるはずがない。

 食料の値上がりで庶民の台所は苦しく、イスラム過激派の自爆テロによる治安悪化にも歯止めがかからない。そんな不満も与党に向けられた。

 今後の焦点は、人民党を中心にどのような組み合わせの連立政権をつくるかである。人民党は第1党になったとはいえ、過半数に届かなかったからだ。

 隣国アフガニスタンでテロとの戦いを進める米国は、ムシャラフ政権の弱体化を防ぐために、大統領とブット元首相の連携を探ってきた。

 しかし、選挙後、人民党幹部はムシャラフ政権との対決姿勢を打ち出し、シャリフ派との野党連立に意欲を示している。ムシャラフ大統領に厳しい審判が下されたことを考えれば、野党連立が自然な流れだろう。

 心配なのは、野党もそれぞれ思惑が違い、ムシャラフ大統領に対する姿勢も異なることだ。そのうえ、人民党には強力な指導者がおらず、内部対立のうわさが絶えない。シャリフ派も指導者の個人人気に頼りがちだ。

 だが、アフガニスタンではいまも戦闘が続いている。かつて戦火を交えたインドとの関係も不安定だ。パキスタンは核を保有している。そんな状況の中で、いつまでも政治の混迷を長引かせるわけにはいかない。各党は一刻も早く連立協議をまとめてもらいたい。

 今回の選挙は、権力側による投開票への介入が少なく、ほぼ自由で公正におこなわれたようだ。

 ムシャラフ大統領は選挙前に「どの政党が勝とうとも、協力する」と語っていた。その言葉通り選挙への介入を控えたのであれば、評価したい。そうした姿勢こそがパキスタンの明日につながる。

 幸い、軍にも変化がある。キアニ陸軍参謀長は政府機関に出向させていた軍人の引き揚げを命じた。政治との癒着を断ち切ろうというのなら歓迎だ。

 パキスタンでは47年の独立以来、民政と軍政が交互に繰り返されてきた。選挙で選ばれた政権が汚職や不正にまみれると、軍がクーデターを起こしたのだ。

 民主主義の基本である総選挙が曲がりなりにも成功した。この選挙を土台に、政党政治を定着させ、安定した政治と社会をめざしてもらいたい。

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