激しい誘致合戦に勝利 東芝北上半導体工場10年完成
◎人材確保が決め手/未利用地の存在も有利に 東芝のフラッシュメモリー工場は四日市に4棟が集中。シェア世界一を目指すにはさらに2棟必要だが、東海地区は雇用確保が難しい。災害時のリスク分散のためにも1棟は他地区に建設することが不可欠だった。 「北上と北九州のどちらが労働力を確保しやすいか、事前にリサーチした」(東芝関係者)というように、進出先の選定では人材確保のしやすさがポイントになった。 北九州周辺にはトヨタや日産、ダイハツなどの自動車工場が複数立地している。北上周辺にも関東自動車工業岩手工場(岩手県金ケ崎町)などが立地するが、北九州ほどの集中立地の状況にはない。岩手県は北上市とともに「県内全体では余力がある」と人材確保の優位性を強くアピールしてきた。 北上工業団地にある子会社岩手東芝エレクトロニクスの存在も大きい。同社からは2006年以降、関係会社を含めて約200人の技術者が四日市に赴任し、フラッシュメモリーの生産にかかわってきたとされる。 「技術者を戻せば、いち早く新工場の生産を軌道に乗せられる」と岩手東芝OBは語る。加えて岩手東芝の敷地内には5ヘクタールの未使用地がある。「団地整備が新たに必要な北九州より有利に働いた」との指摘もある。 岩手県や北上市は税の優遇や設備投資に対する助成を行う優遇制度を設けているが、それ以上の立地助成金の金額は提示できずにいた。北九州市は250億円に上る助成金を用意していた。 助成金の不利を乗り越えて誘致を勝ち取った結果に、北上市の担当者は「労働力などが総合評価されたことは今後の企業誘致の自信になる。企業は金銭的メリットだけで動く時代ではなくなった」と分析している。 ◎波及効果を地元期待 東芝が半導体新工場を北上市に建設すると発表した19日、地元は歓迎の声で沸いた。有力地とされながら正式決定の知らせがなかなか届かなかっただけに、誘致に取り組んだ関係者の喜びは大きい。自動車と並ぶ柱として位置付ける半導体産業の核となる工場の進出に、岩手県関係者は「産業集積に一気にはずみがつく」と期待を寄せた。 「北上だけでなく、岩手、東北にとっても数十年に一度のビッグニュースだ」。北上市の伊藤彬市長は同日夕、市役所で記者会見を開き、誘致実現の喜びを強調した。 正式決定の連絡が入ったのは、同日午後3時40分ごろ。室町正志執行役専務から電話で「雇用は300人程度で始め、その後、増員していく」と伝えられたという。 新工場の投資額は同時に建設する三重県四日市市の工場と合わせ、1兆7000億円超とされる。伊藤市長は「雇用に加え、設備、建設の需要、関連企業の進出も見込める」と波及効果に期待を込めた。 達増拓也知事も「(ものづくり産業の)人材育成に取り組んできた県や企業の姿勢が評価された。県内経済に非常にいい影響を及ぼし、岩手の総合力を高めるけん引役になる」と語った。 県は今後、北上市とともに新工場受け入れに向けた準備を加速させるとともに、半導体関連産業の集積を目指す。3月28日には産学官連携組織「いわて半導体関連産業集積促進協議会」(仮称)を設立し、関連産業の取引拡大や人材育成に乗り出す。 ものづくり産業の人材育成を進める産学官連携組織「北上川流域ものづくりネットワーク」の谷村久興代表は「地元企業の参入機会も生まれる」と歓迎。半導体産業界が求める技術力の高さに触れ、「高度な技術を持つ人材を育てられるかどうかが、波及効果を高める鍵になる」と課題も指摘した。 ◎東北・各界の反応 東芝が北上市に半導体工場の建設を決めたことについて、東北の各界は新たな産業集積と経済波及効果に期待を寄せている。 <産業構造に厚み/幕田圭一東北経済連合会会長の話> 東芝の半導体工場進出は、東北の産業構造に一層の厚みをもたらすのではないか。東北地域には、自動車関連産業や電子機器産業の誘致、増設が進んでいる。半導体産業もすそ野の広い分野だけに、東北経済全体への波及効果が期待できる。 <インパクト大きい/渡部速夫日本政策投資銀行東北支店長の話> 乗用車の自動制御装置の普及などで、自動車産業と電子産業は急速に融合し、両者は切っても切れない関係になっている。東芝の新たな拠点が東北にできるのは、自動車産業のすそ野を広げる上でも大きな意味があり、インパクトがある。 <電子産業に呼び水/赤津光一郎東北経済産業局長の話> 半導体装置メーカーの進出もあり、川上から川下まで関連産業の流れが強固になる。将来最大の半導体ユーザーになるとされる自動車産業との相乗効果も期待でき、東北経済にとってベストミックス。カーエレクトロニクス産業の呼び水にもなるだろう。 <相乗効果を期待/村井嘉浩宮城県知事の話> 東北に活力をもたらすビッグニュースだ。宮城県は東京エレクトロン、セントラル自動車の工場進出を控え、自動車、高度電子機械産業の集積を目指している。大きな核となる東芝の半導体工場の岩手立地は、宮城にとっても相当な相乗効果が期待できる。
2008年02月19日火曜日
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