News & letters 65
戦後の解放運動は二つの頂点がありました。
一つは同対審答申をうけて(1)同和対策特別措置法の制定闘争 と、(2)狭山闘争であります。
(1)の特措法の戦いの天王山は、68年8月9日の総理府包囲・突入闘争でした。
この闘争は、これまで遊山気分で観光地などで行っていた解放同盟の全国青年集会(約1000人)を東京にもって来て、青年の大衆行動を特措法制定の実力闘争にぶっつけたのです。結局使用しなかったけれども白いヘルメット500個も用意しました。
前日全青の集会にはアメリカのSNCCの急進的学生活動家も呼んで気勢を上げました。
あくる日、総理府周辺は機動隊によって物々しく警戒態勢が敷かれていました。
8月9日の正午を期して、1000人の青年たちと、解放同盟の中央委員及び中央執行員の幹部100人が一斉に総理府に突入したのです。幹部100人は先に庁舎内に入り込み正午を合図に庁内で行動対の服に着替え、総理府の廊下を歓声を上げシュプレヒコールをしながらぐるぐると行進をし、床次総理府長官の部屋の前に座り込みを繰り返しました。外では青年大衆が真っ向から機動隊と組み合い押し合いしながら総理府の廷内に突入しました。
このような白昼騒然とした実力闘争は解放運動始まって以来のことでした。
全国から集まった100人の幹部はその日の朝、旅館で水杯を交わしました。全員逮捕の覚悟を固めていたのです。
私は京都府連の猛者駒井昭夫ら5人で決死隊を結成し、数名の警備員を押さえつけておいて、庁舎屋上を制圧し、そこから数千枚のビラをまき散らすとともに、巨大な垂れ幕2流を総理府の正面に垂らしました。私はそのとき警備員二人の首を両腕に巻き込み押さえつけて動けないようにしました。
なぜか忘れられないのは総理府の屋上から見ると、そのとき原水禁か原水協かのデモ隊が道路を進んでいるのが見えました。
床次長官は我々のこの大胆な実力闘争の前に屈服し特措法の制定を約束したのでした。
これによって、戦後長い間続いた同和対策の国策樹立要求の闘争は収束したのです。
この日の闘争を計画し指揮したのは中央本部の青年対策担当の書記であった私と中央本部で唯一の常勤の中執であった西岡智であります。
西岡智がいなければ、特措法の制定がいつになったかわかりません。お願いします、要求しますの口舌の運動ではとうてい埒があかなかったでしょう。
全員逮捕されてもかまわないという決死の戦いがなければ人民の要求は成就しないのです。
勿論私にしても西岡にしても、この特措法で出された巨額の金で同和地区の幹部連中が今日に見るように鼻まで浸かって窒息状態になろうとは夢にも思いませんでした。しかし、その予感は十分していました。
(2)だからこそ、私らは狭山闘争を起こしたのです。
予算獲得の物取り闘争ではだめだ、狭山の反権力闘争で同盟内部や部落大衆の意識を改革し、反権力・自力更生の道を切り開こうとしたのでした。大衆運動の指導者は、その事業そのものの意義だけではなく、その事業や戦いの歴史的な意義も追求しなければなりません。この闘争を勝利に導くことによって更に次元の高い政治的目的に向かわねばなりません。労働者のパンを求める戦いもパンだけに終わってはならないのです。なぜパンが奪われたのかを究明し、パンを確保する恒久的な政治勢力の形成が必要であることを大衆に分かってもらわねばなりません。
そういう私の意見を理解し受け容れてくれたひとは当時は西岡智一人だけでした。理解だけではありません。その理解を即刻実現しようとしたのも西岡だけであります。西岡は何も哲学や経済学をやってきたわけではありません。彼は切実な要求を持つ部落の大衆運動で感性を磨き、自己を形成した男であります。しかし、彼の天性の感性と頭脳は、即自的に高い政治的判断を可能とするところまでに達していたと思います。だから彼には、中核だとか、どうだとかいって過激派を嫌う既成左翼の頑迷な意識とは無縁であり、広範な反体制運動を包容する解放運動を展開したのです。狭山の闘争はパルチザン闘争のようにあらゆる党派を結集し統一戦線をくんで発展していったが、それは卓越した西岡の戦略的判断であり、包容力だったのです。狭山闘争は、私の浦和地裁闘争で突破口を開き、現地調査体制や、公判闘争などで私が先行し、突出した戦いをしていましたが、やがて解放同盟を基軸にした西岡の戦略的編成の中に吸収されたかたちになったのです。
二人の戦いは期せずして大きな効果を描く結果になりました。
・・・・・・ 続く・・・・・
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