東芝クレーマー事件の問題*1の核心

1999年8月5日  亜細亜大学法学部助教授 町村泰貴

はじめに

 福岡の一会社員Akky氏が購入したビデオデッキの再生不適合に端を発し、WWWに東芝側のクレーム応対ぶりを音声入りで公開した事件は、多くの人の注目を集め、マスコミをも巻き込む騒動に発展した。この事件は、インターネットというコミュニケーションの道具が普通の市民と大企業、マスメディアのこれまでの力関係を大きく変える可能性を持っていることをまざまざと示したものだ。

 そのことは同時に、これまでの社会関係が前提としてきたルールのあり方も再検討せざるを得ないことを意味している。もちろんインターネットという新しい通信手段の特性やアクセス可能性の広がりから、ルールの見直しが必要な分野は多方面に及んでいるが、特に東芝クレーマー事件では、以下の三点が検討課題として浮上した。

 東芝クレーマー事件は第1の問題が中心的課題だが、第2の問題も無視できない。東芝とAkky氏との問題だったところが、東芝側がウェブページの一部削除を求める仮処分を申し立てると、これに対する極めてネガティブな反応が巻き起こった。そこには日本人の裁判に対するイメージやネットワークのオートノミー願望が見え隠れするように思われる。そして第3の問題は、これまでも折に触れて現れていた日本社会の幼児性とネットワーク社会の理想とのギャップを示すものだ。

(1)インターネットを通じた紛争の一般公開

(2)インターネット上の表現行為に対する差止仮処分・差止訴訟

(3)Akky氏への嫌がらせとセルフガバナンス





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