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海自イージス艦・漁船衝突:「あたご」右転せず 正面接近、回避不適切の疑い

 千葉・野島崎沖で海上自衛隊のイージス艦「あたご」とマグロはえ縄漁船「清徳丸」が衝突した事故で、衝突前、あたごが清徳丸を右舷側に見てほぼ真向かいに行き会う状態で接近した可能性があることが関係者の証言などで分かった。海上衝突予防法では原則、「行会い船」は双方が面舵(おもかじ)(右舵)で針路を右に転じることを義務付けているが、あたごは後進をかけ減速しただけで面舵は切らなかった。横須賀海上保安部などは、あたごの回避動作が不適切だった可能性が高いとみて調べている。

 海自などの調べでは、あたご乗組員は衝突の2分前、右に清徳丸右舷の緑の灯火を視認。1分後、灯火がスピードを上げ動いたため船と確認し、全力の後進をかけたが1分後に衝突した。

 乗組員が左舷の赤の灯火ではなく右舷の緑の灯火を見たと説明していることや、清徳丸の僚船船長が「ほぼ正面から向かってきた」と証言していることなどから、両船が行き会う状態で接近した可能性がある。

 海上衝突予防法14条は、2隻が行き会う場合、双方が針路を右に転じて衝突を回避するよう義務付けている。また同法15条では、2隻の進路が横切る場合、右側に他船を見る船が、面舵などで回避する義務がある。

 海保関係者によると2隻が接近して向かい合う場合、行会い船か横切り船か判断が難しいケースがあるという。同法14条は、2隻の関係が確認できない場合は、互いに右転するよう定めている。

 防衛省関係者は「漁船の緑灯が見えていて、右方向に動いている可能性があるのに右転すれば、衝突の恐れがさらに増す可能性もある」と話している。

 ◇水上300メートル、人の目頼り--衝突1分前、確認が遅く

 海上自衛隊のイージス艦「あたご」と漁船「清徳丸」の衝突事故では、水上レーダーなど監視システムが事実上機能しなかった。遠距離の探知を目的としているだけに、約300メートル以内は把握できない弱点を持つ。目視も漁船を確認したのは衝突1分前。回避しようと全力後進にしたが、推進力はなくならずそのまま衝突した。把握の遅れが惨事を招いた。

 総額約1400億円をかけ就役したあたごの「イージスシステム」は、米国が開発した防空専用のシステムで、近くの船を探知する装備ではない。このため、夜間の当直体制で領海近くを航行する場合は、在来の護衛艦同様、周辺海域の船影を探す水上レーダー2基に頼ることになる。

 船を操舵(そうだ)する艦橋(ブリッジ)と、敵の情報収集や武器の操作全般をコントロールする戦闘指揮所(CIC)内には、船影を映し出すモニターが設置されている。

 レーダー探知について、吉川栄治・海上幕僚長は「行きあう船の状況などで『ゴースト』が映ることもある」と何らかの船影をキャッチしていたことをうかがわせるが明言を避けている。

 しかし、水上レーダーも電波の照射角度の関係で、300メートル程度の近い対象となると、構造的に捕捉が難しくなる。元護衛艦艦長は「元々遠くの敵艦を発見するためのもので、近くは反射波を検出できない」という。このため、艦橋の両脇と船尾に立ち、双眼鏡で監視している3人の見張り員ら計約10人の乗組員の「目」が最後の頼り。

 元艦長は「地平線の関係で約15キロまで船影は見える。天候が良ければ、船の灯火も見える」という。気づくのが遅れるケースとしては(1)明かりがついていなかった(2)明かりを見落とした(3)他の漁船の動きに気を取られ気づくのが遅れた--が考えられるという。

 自衛隊幹部は「事故時のように波もおだやかな好天の夜なら、約12メートルの漁船でも把握できるはずだが」と話す。【本多健、加藤隆寛】

 ◇当直責任者らを海保が本格聴取--不明者の捜索続く

 横須賀海上保安部(神奈川県横須賀市)は20日、海自横須賀基地に接岸したあたご艦内で乗組員から本格的な事情聴取を始めた。午前9時過ぎ、海上保安官42人が艦内に入り、事故当時の乗組員の立ち位置を再現するなどしながら、艦橋にいた当直責任者や士官らに、目視や回避動作の状況を聴いている。

 また引き続き海自と合同で、行方不明になっている清徳丸船主、吉清(きちせい)治夫さん(58)と長男哲大さん(23)の捜索を続けている。

毎日新聞 2008年2月20日 西部夕刊

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