HD-DVDを撤退に追い込んだブルーレイ。果たしてこの先はどうなるのか=18日、都内(ロイター) しかし、元・経済産業研究所(RIETI-Research Institute of Economy, Trade and Industry)のフェローで、通信関係のコラムを執筆し、その関係の著書も多い池田信夫氏は「東芝のチャンス」として、1月6日にブログ・エントリを発表している。これが大変に興味深い内容だ。 すでに07年末、米国のエンターテインメント企業大手であるワーナーがBDの採用をした、というニュースが流れ、そのときには関係者のあいだで「これで東芝は負けた」ということがささやかれた。これはそのときに書かれたエントリだ。 池田氏のこの短いエントリでは「勝者はソニーではなく、東芝かもしれない」ということが書いてある。記者もまた、そう思う。 それはこういうことだ。 高速のネット回線が当たり前に各家庭に入りつつある先進国の情勢を見れば、映像コンテンツの配信について「イタ」はすでに時代遅れである。次世代DVD戦争に勝ったがゆえに、これから先「イタ」にかかわることになったソニーは、次世代のコンテンツをエンドユーザーまで運ぶ「メディア全体」としては、余計なお荷物を抱えることになったと言えるだろう。むしろ東芝はこれでオンライン・オンデマンドが主流になるはずのコンテンツ戦争に有利なカードを手にした、と考えることができる。 ところで「次世代DVD」の特徴とは、その容量にある。これまでのDVDのおよそ10倍近い容量のデータが、同じ5インチ径のディスクに入る。基本的にはそれだけだ。デジタルハイビジョンでは従来の映像データよりも、その量が膨大になるため、これまでのDVDに記録できる映像の容量はおおよそ20分ほどになってしまう。しかし、次世代DVDではこの容量が大幅にアップする。ハイビジョンでは今までのDVDで長尺の映画を載せることは困難だったが、次世代DVDではこれができる。 しかし、一方、映像コンテンツの高度化ということでは、すでにNHKの研究所が中心となって、現在のハイビジョンよりさらに高精細の「スーパーハイビジョン」が実用化の域に入ってきた。もちろん、各国の諸機関との交渉も大詰めに入っており、世界的な規格の混乱なども現状はない。当然、これが実用化されれば、データ圧縮技術がほぼ出尽くした今では、データ量はまたハイビジョンに比べて数倍必要になることは目に見えている。 加えて、現在ネットではYouTubeなどの動画サイトでの映像配信が当たり前になっている。素人が作ったコンテンツだけではなく、プロが作ったコンテンツもネットで配信する多くの「ネットテレビ局」も多くできている。 07年には、Kazaa、Skypeの作者として有名な、ニクラス・センストロームとヤーヌス・フリースによって、P2P技術を使ったネットテレビ「Joost」ができた。同社は07年中にワーナーとの契約を済ませ「ネット版動画つき番組表」のようなサービスを始める、ということで話題となった。現在Joostは日本法人の設立も検討中とのことで、多くの売れる映像コンテンツを持つ日本のテレビ局やプロダクションへの働きかけを始めているところだという。 また、次世代インターネットのインフラとして、日本では「NGN」もすでに整備されつつあり、ネットはいよいよ大容量・超高速の時代に入りつつある。流れは、完全にオンライン・オンデマンドの映像配信の時代に向かっているこのさなか、今から「イタ」でコンテンツを売る、というのはやはり時代遅れの感じが否めない。 オフラインからオンラインへの、コンテンツ産業の主戦場の移動は、すでにデータ容量の小さな音のみの世界(音楽CDからiPodなどへの変化など)で始まっている。この流れは当然のことながら映像コンテンツにもやってくる。今はその時代の入り口、という感じだ。そして、そうなったとき「イタ」というお荷物を持つ会社は、イタを捨てるタイミングを見誤れば、苦労することになるだろう、ということだ。 平家物語の冒頭の一文を持ち出すまでもなく、今の世代の勝者が次の世代の敗者になった例は枚挙にいとまがない。それが世の中の変化というものだからだ。
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