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文明史的な課題

2008年02月20日

 サブプライムローンに端を発する米国の金融・経済のきびしい局面はその全容をつかめないまま、景気後退のリスクを深めている。

 大統領選挙戦たけなわの中で減税を含む千数百億ドルもの財政出動を急きょ決定したのも、またFRB議長が1月下旬に計1.25%もの利下げを行ったのも異例だが、それで景気後退が防げるかとなると疑問だろう。サブプライムローンを組み込んだ証券の市場は閉塞(へいそく)したままである。大手銀行・証券の巨大な損失を産油国などの政府系ファンドで埋め合わせる動きは素早かったが、信用収縮が企業や家計に及ぼす影響はこれからである。住宅価格の今後の下落率には様々な見方があり、更に25%程度下がるとの予想もある。ジョージ・ソロスは年初来の世界の株価下落に対して、「これは一つの時代の終焉(しゅうえん)である」と語ったという。景気後退が長引けば、新興国の成長にも影響が及び、高成長を続けてきた世界経済も曲がり角となる。中国もそのあおりで供給過剰、銀行の資産内容の悪化などの困難に逢着(ほうちゃく)する可能性がある。

 こうした急激な変化の悪影響を対症療法で緩和することは必要だが、世界を巻き込むこれほどの問題がなぜ起きたのか。その原因を明らかにし、将来に向かって布石をすることはそれ以上に大切だと思われる。米国内にも金融のイノベーションに対して自由を与え過ぎたという声が出ている。金融システムの高度化や市場機能に対する過信が金融倫理の予想以上の低下に結びついたと見ることもできよう。どんな優れたシステムも、それを作り、運用するのは人である。当事者のもつ見識や自己規律に見合ったシステムを作り、維持することの必要が呼びかけられている。それは市場主義という、人の心と現実を切り離してとらえる「客観主義」のパラダイムを見直すことを迫る文明史的な課題でもある。(瞬)

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