私の臍(へそ)には小人が住んでいた。
彼は名を名乗らないので、私は「お前」とか「あんた」とか、そういったいい加減な呼び方をしていた。彼も私に「おい」とか「てめぇ」とか、そういった美しくない呼び方をするのでおあいこなのだ。
「おい、何なんだよあの男は」
小人はとてもやきもち妬きなので、私は時々頭に来て、彼に怒鳴ったりした。
「うるさいわね、あんたに関係ないじゃないの」
「馬鹿野郎、俺はお前のご主人様だぞ!」
彼はキイキイとそう叫んだ。そしてその短い手足をじたばたとさせた。彼は本気で自分が私の主であると思っていた。私にしてみれば、彼は私の寄生生物でしかない。いつもならそのまま聞き流すそんな生意気な台詞も、今回ばかりは我慢ならず、私は彼を指先で摘み上げた。そして自分の鼻先まで持ち上げると、彼はじたばたともがいた。
「暴れるんじゃないわよ。このまま飲み込むわよ」
そう脅すと、小人は一瞬ぎょっとしてこちらを睨んだが、またキイキイと耳障りな声を上げながら暴れた。私は本格的に腹が立ち、彼をオカリナの中に詰め込んだ。そして出てこようと暴れまくる彼を右手で抑えながら、左手でセロハンテープを切った。利き手でない左手を使っていたのと、焦りとで、作業は思ったより時間を要した。しかし数分後には、小人が出てこられそうもない小さな穴まで、全てをふさぎ終えていた。
次の日、オカリナから彼を取り出してみたら、既に彼は死んでいた。ぐったりとしたその体は、とても気味が悪く醜いものに思えた。
彼の死体をどうしようか、しばらく悩んだ。土に埋める気にはならなかった。
まず最初に、カプセル状の風邪薬を開け、色とりどりの粒の代わりに彼を入れた。そしてそのカプセルを携帯香水入れに入れた。そのアトマイザーを指輪の箱に入れた。指輪の箱をお菓子の缶に入れた。お菓子の缶をぬいぐるみに入れ縫いつけた。ぬいぐるみをカバンに入れた。カバンをピアノの下に置いた。
その夜、風呂に入ろうとしてはっとした。いつもの……彼がいた時のくせで、へそを気遣った妙なポーズで服を脱いでいたのだ。何となく照れくさくなり、早めに風呂を上がった。
布団に入ってからも、なかなか寝付けなかった。私は、何とも言えない寒さに震えていた。胸がカラッポ、というのはこういう事だろうか。もっとも、この場合へそがカラッポと言った方がいいかもしれないが。
涙は出なかった。けれども私は彼を愛していた。
私は布団を抜け出るとのそのそと床を這いつくばり、ピアノの下まで行った。そしてカバンをそっと開けた。ぬいぐるみはふかふかしていたものの、ひんやりと冷たかった。
きっと、誰でもそうなのだ。私はそう、自分に言い聞かせた。葬りきれない小人を、かつては共に生き、愛した小人を、きっと誰でも――少なくとも女の子は、手放す事なぞ出来ないのだ。だから女の子は、ぬいぐるみを抱いて眠るのだ。 |