 |
衝突した漁船の船尾部分(手前)とイージス艦「あたご」。中央は海上保安庁の巡視艇
Photo By 共同
|
 |
千葉県・野島崎沖の太平洋で海上自衛隊の最新鋭イージス艦「あたご」(艦長・船渡健一等海佐)が19日午前4時ごろ、マグロ漁に向かっていた千葉県・新勝浦市漁業協同組合所属の漁船「清徳丸」(7・3トン)と衝突した。清徳丸は船体が2つに割れ、乗っていた親子2人は行方不明。昨年3月に配備されたばかりの高性能レーダーを備えた最新鋭艦が、なぜ目の前の漁船を回避できなかったのか。専門家からはイージス艦の意外な盲点を指摘する声が出ている。
「あたご」の建造費は1400億円以上。全長165メートル、7750トンの巨大な船体に、数百キロの範囲をカバーし、100以上のミサイルなどを同時補足する「フェーズド・アレイ・レーダー」を搭載。射程100キロのミサイルで同時に10以上の目標へ自動的に攻撃可能な世界トップクラスの最新鋭ミサイル護衛艦だ。
高い防空能力から、ギリシャ神話に登場する“万能の盾(イージス)”に名前が由来しているにもかかわらず、目の前の漁船に激突するという信じがたい事故を起こした。
イージス艦は航海用の水上レーダーも搭載。ただ、軍事ジャーナリストの神浦元彰氏は「防空能力の一方で、航海用レーダーは普通の貨物船などと同レベルのもの。20〜30キロしかカバーしておらず、小さな船は波のうねりに隠れてしまえば捕捉できない。ある意味で、イージス艦の弱点」と指摘する。水上レーダーは艦橋の高い位置に設置されており、すぐ近くの目標物は捕捉しにくいという難点もある。さらに、清徳丸のような船体が強化プラスチック素材の場合は、レーダーの電波が反射しにくいという。
レーダーだけでなく、周辺を監視する「見張り番」の自衛官も配置されている。神浦氏によると「ブリッジ内に2人、艦橋の左右に2人、後方に1人の計5人が24時間体制で監視している」という。当時、波の高さは0・5メートル、視界は良好だったといい「航海灯をつけていれば10キロ離れた場所からでも確認できる。漁船が回避できなかったことを考えれば、警笛も鳴らしていないのでは。軍艦は普通の船に比べて回避能力が高いのに衝突したのは、(見張り番の)怠慢が原因」と人為的ミスであると強調する。
「あたご」は昨年11月から今月6日まで、米ハワイ沖でミサイル発射訓練を実施。山口大人文学部の纐纈厚(こうけつ・あつし)教授は「訓練の後ということで、疲労や緊張感の緩みもあったのではないか。護衛艦が大型化し機器も高度化すると、逆にそれに頼って注意がおろそかになりがち」。00年10月には、イエメンに停泊中の米イージス艦「コール」に爆弾を搭載したボートが突入するテロが起きており、今回の事故で高性能艦の弱点が露呈した格好だ。
▼海上衝突予防法 国際規則の規定に準拠し、船舶交通の安全を図ることを目的とした法律。海上は「右側航行」が原則で、2隻の船が正面から行き合う場合、両船とも針路を右に転じて航行。2隻の船が針路を交差して横切る場合、相手を右舷側に見る船が右に針路を転じて衝突を避け、一方の船は針路、速力を保ったまま航行することを定めている。
|