柳美里氏、裸で闘った5年間(6/6)
「彼の影は強い太陽の光を避けるための日陰のような意味で、悪いイメージの影ではありません」
-もう1度社会問題に取り組む考えはないのか。
「子どもを育てながら、児童虐待、親による児童虐待が書きたくなりました。児童虐待に関する新聞報道は“なぜ親が…信じられない”という反応が出るように書かれていますよね。理解の回線が通じるコードが消え去っています。でも子どもを育てていると、“あ、このスイッチを押せば結局は虐待につながるんだな”という瞬間があります。神経が鋭敏になって怒りが爆発するスイッチは一つや二つではありません。虐待される子どもではなく、虐待する親の心理も書く必要があるんじゃないかと思います」
◆16歳で家出、23歳年上の男性と同棲、妊娠と別れ
「書くことが生きること」という彼女の言葉は誇張ではないようだ。「地獄に落ちても(地獄を)正確に描くだろう」という日本の作家の評価のように、柳里美氏が人生の底辺で鏡に映った自分の姿までを徹底して文章として記録したのが『柳里美不幸全記録』だ。
柳里美氏は2001年に『命』というエッセイを出版した。妻子ある男性との不倫、妊娠、別れ、出産、そして生涯の恋人との死別など、自らの不幸を冷酷なドキュメンタリーとして書き綴り、ミリオンセラーになるほど大きな反響を巻き起こした。02年1月から07年7月までの日常を日記の形で記録した新作は、『命』の続編とも言える柳里美の30代の記録だ。未婚の母による育児、苦痛を克服するためにマラソンを完走した話、小説『8月の果て』を取り巻く朝日新聞との葛藤、11匹の猫を飼うようになった経緯など、事細かな生活の話に至るまで詳しく書き綴られている。彼女のとりとめのない人生に対する完全な共感は難しくとも、誇張や隠し事がないことから、本を読みながら一気に一晩を明かすことのできるおもしろさは感じることができるだろう。
柳里美氏は祖父の代に家族で日本へと渡った在日韓国人3世だ。崩壊した家庭と国籍による差別の中で強要された幼いころの不幸は、23歳年上の師の懐で癒された。家出した16歳の未成年のころの話だ。同棲中、お互いに別の異性と関係を結び、父のような恋人と対決する場面では、“柳里美”という人間のタイプそのものにぞっとすることもある。師との死別で始まった柳里美の30代は、不幸だった10代へと戻ってしまったのかもしれない。しかし10代の時とは異なり、彼女の懐には彼女が“命”と表現した息子がいた。彼女は本の最後に「不幸の深さがそのまま人生の深さになるなら、それで満足だ」と書き綴った。
東京・鎌倉=鮮于鉦(ソンウ・ジョン)特派員
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