IT先進地“アキバ”のトレンドがネットを動かす/書評『アキバが地球を飲み込む日』
BOOK REVIEW ウェブ担当者なら読んでおきたいこの1冊
『アキバが地球を飲み込む日 秋葉原カルチャー進化論』
評者:山川 健(ジャーナリスト)
いつからか「萌え」の街になった秋葉原で何が起きているのか
IT先進地でマニアの街“アキバ”のトレンドが世界を動かす
- アキバ経済新聞 著
- ISBN:978-4-8275-5018-4
- 定価:720円+税
- 角川SSコミュニケーションズ
家電やパソコンの街のはずだった秋葉原=アキバ。気が付くと、メイド喫茶やアニメキャラクタに主役の座を奪われていた。一体いつからそうなったのだろう? 秋葉原で何が起きているのか。そんな疑問に答えてくれる1冊。秋葉原を「独自の文化を生み出し、世界に影響を与え続ける街」と位置付け、秋葉原に関するニュースサイト「アキバ経済新聞」に掲載された記事と、それについての解説や後日談で秋葉原の今を紹介している。
秋葉原に対して持つイメージは、人それぞれで異なる。本書でも、家電の街、コンピュータ部品の街、オタク文化発信の街、鉄道模型の街――など興味や知識ごとに印象がまるで違っている、と分析。秋葉原を訪れた外国人は、それらすべて含めクールな(格好良い)街、と呼ぶ。そして「アキバ=クールが世界の共通認識。アキバ文化は地球を飲み込む勢いで増殖している」と強調する。
内容は「萌えるアキバ」「遊園地化するアキバ」「巨大化するアキバ」の3部構成。やはり「萌える」というキーワードに象徴されるメイド、アニメ系についてのトレンドが最初に取り上げられている。本書によると、秋葉原のメーン商品がラジオ、テレビ、オーディオ、パソコンのハード、ソフトと変化し、マルチメディアコンテンツとしてゲームやアニメのキャラクタに注目が集まり、その流れで2001年、メイド喫茶が開店し一気に拡大した。
その方面に興味のない私にとっては、なぜメイド喫茶がもてはやされるのか理解できない。風俗的な臭いもする。アキバ発の文化というより風俗。とはいえ、メイド喫茶は今ではバンコクやシンガポールにも出現。在留邦人だけでなく地元客をも対象にし、それなりに受けているらしい。秋葉原発が地球を飲み込んでいる1つの事例とも言える。
ただ、さすがに秋葉原のメイド喫茶は飽和状態に陥り、異なった業態での出店が増加している。メイド眼鏡店、美容室、マッサージ、カラオケ、カジノ――。本書は「アキバにおけるメイドは単なる流行を超えて、メイド産業として確立されている」と総括する。その半面「『メイドがつけば何でもいいのか?』という気がしないでもないが……」と疑問を投げ掛ける。秋葉原で起きている現象を客観的に記している本書にあって、メイド産業に疑問を感じている事実は特筆すべきことだ。
「萌え」が街の主導権を握る一方で、観光、デート、ショッピングのために秋葉原を訪れる家族連れやカップルが増えているのも近年の特長。2005年の家電量販店、ヨドバシカメラマルチメディアAkiba開店と、つくばと秋葉原を結ぶ鉄道、つくばエクスプレス開業がきっかけ。それによって近寄り難い街ではなく、東京の流行スポットに変ぼうしていった。萌え系目当てのマニアと一般のファミリーやカップルがともに集まる街。それが今の秋葉原の持つ奥深さなのだろう。
もともとIT先進地である秋葉原は、インターネットと親和性が高い。技術的な側面だけでなく、流行のきっかけにもなり得る。「萌え」ブームも、ネットが果たした役割は小さくない。秋葉原で受ける物がネットではやり、ネットで注目される物は秋葉原でも支持される。そう考えると、インターネットビジネスを成功させるためには秋葉原の動向に常に注意を払っておく必要がある、と言っても過言ではないだろう。
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