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最新鋭イージス艦、水上事故へは「人的な警戒」頼み

2008年02月20日07時54分

 衝突は避けられなかったのか。最新鋭のイージス艦とはいえ、高性能レーダーはもともと水上の事故回避には機能せず、人的な警戒に頼るのはほかの艦艇と同じだった。多数の犠牲者を出した潜水艦「なだしお」の事故から20年。またも教訓は生かされなかった。トップへの報告にも時間を要したことで、政府・防衛省の危機管理のあり方も問われている。

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 ■100以上の目標物探知

 19日未明、房総半島沖。海上自衛隊のイージス護衛艦「あたご」は神奈川県・横須賀基地をめざし、北上を続けていた。ミサイル発射試験を終え、約4カ月ぶりの帰国だ。

 日本近海に近づくにつれ、行き交う船は大型船だけでなく小型船が増える。海自関係者は、大小の船舶で混雑する浦賀水道に向け、見張りの隊員の緊張は通常なら高まっていたはずだと言う。

 航行時の見張りは、艦橋の両脇のウイングに1人ずつ、後甲板に1人。艦橋の中では、当直士官や操舵(そうだ)員らが周囲を目視し、航行の安全を図っていた。夜間は2、3時間で交代する。

 視界がよければ、夜間でも約4キロの距離から船舶の灯火は確認できる。石破防衛相の説明によると、あたごが右前方に清徳丸の灯火とみられる緑色の光に気づいたのは、衝突の2分前。両者の距離は不明だが、海自関係者によると、その時点で双方が回避措置をとれば、衝突は避けられた可能性はあるという。見張り員と水上レーダーの担当者が情報交換したかどうかは分からない。1分後、速度が速まり、漁船の光と分かる。あたごは全力で後進をかけるが、大型艦はすぐには止まらない。

 事故の前、清徳丸は右にかじを切った。一方、現場周辺にいた漁民によると、あたごは直進してきたという。かじは切っていないと見られるが、その点が原因究明の要点になる可能性もある。

 最新鋭のイージス艦がなぜ、衝突を避けられなかったのか。イージス艦の特徴は高度な防空性能だ。100以上の目標物を探知するフェーズドアレー・レーダーを備え、同時に十数個の航空機やミサイルに対処できる。だが、それらは上空の敵機などに対処するもので、水上の船舶などを捕捉するレーダーは通常の艦艇と比べて格段に性能が高いわけではない。

 航行時、あたごは艦橋とその下部にある戦闘指揮所で、乗員が水上レーダーの画面を確認していたが、漁船の船影が確認できていたかどうかは分かっていない。

 ■事故防止策の見直し必至

 30人の犠牲者を出した海上自衛隊の潜水艦「なだしお」と釣り船第1富士丸の衝突事故から20年。事故は再び繰り返された。

 なだしお事故の最大の争点は衝突回避義務がどちらにあったか、だったが、94年の東京高裁判決などでは「なだしおが速度を落としていれば、衝突回避義務を果たすことができた」とし、なだしお側に事故の主因があると認定した。

 なだしお事故が起きた後、海上自衛隊では年度当初にすべての艦艇に対して、航行安全の講義や講習、実技の訓練を実施しているという。

 毎年1回、護衛艦などを1カ所に集め、当直士官に海上衝突予防法のペーパーテストを実施したり、過去の事故事例の研究・発表をしたりしている。また、当直士官の候補者は実際に艦艇に乗り、幹部の前で実際に任務に当たるなどの講習をしてきた。

 各艦艇はエンジンを逆進させ、かじを切った場合にどのくらいの距離で止まるかのデータを取っている。水上レーダーや肉眼で洋上を監視し、漁船などを発見した場合にはデータに基づいて回避行動の判断をする態勢は取られていたが、衝突事故は起きた。

 海自は昨年、イージス艦に関する情報漏洩(ろうえい)で逮捕者を出した。前次官の接待汚職事件では防衛省全体が揺れ、危機管理と綱紀粛正が求められているさなかだった。吉川栄治・海上幕僚長は19日、「(訓練などが)本当に効果があるか、再発防止策とともに検証したい」と述べ、新たな対策を検討する姿勢を示した。

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