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社説(2008年2月20日朝刊)

[イージス艦衝突]

護衛艦の責任は免れない

 海上自衛隊の最新鋭イージス護衛艦「あたご」(七、七〇〇トン)が千葉県の新勝浦市漁協所属の漁船「清徳丸」(七・三トン)と衝突し、漁船に乗っていた二人が行方不明になった。

 イージス艦は、高性能レーダーを搭載し、探知したミサイルなどの情報を大型コンピューターで瞬時に処理し、十以上の目標に同時に対処できる能力がある。

 最新鋭の性能を備えた護衛艦が、なぜ衝突を回避できなかったのか、事故直後の救助活動の初動に不備がなかったのかどうか、疑問がわく。

 今回の漁船との衝突はイージス艦による初めての重大事故であり、事態を重く受け止めるべきだ。

 政府の危機管理の面でも、見過ごせない重大な問題を残した。福田康夫首相に一報が届いたのは事故から約二時間、石破茂防衛相の場合は約一時間半かかった。情報連絡がこのありさまでは万全の態勢が取れるわけがない。

 海上保安庁は、業務上過失往来危険容疑で、艦長の船渡健一等海佐ら乗組員から事情聴取する。政府、防衛省も全力を挙げ、衝突を回避できなかった原因を徹底的に究明してほしい。

 今回の事故で清徳丸は船首と船尾部分の二つに割れ、イージス艦の船首付近に衝突したような跡が見られた。

 イージス艦は対空レーダーのほか航海用レーダーを備えており、通常、ブリッジや後甲板などで約五人がレーダーや目視による監視をしている。

 清徳丸の存在に気付くのが遅れたのだろうか。この点について、吉川栄治海上幕僚長は「衝突前に漁船に気付き、回避動作を取ったと聞いている」と説明している。

 海上衝突予防法によると、二隻の船の進路が交差する場合、相手を右側に見る船は右に進路を取り、衝突を避ける義務がある。あたごが清徳丸を右側に見ていた場合は、あたご側に回避義務があったということになる。

 あたごはハワイでの対空ミサイル発射試験などを終え、横須賀港に向かう途中だった。清徳丸は仲間の船数隻と勝浦市の川津港を出港し、三宅島方面に向かっていた。

 事故が起きた現場付近は東京湾に出入りする貨物船などが航行し、船舶の交通量が比較的多い海域とされる。この点を踏まえれば、あたご側は細心の注意を払ってしかるべきだった。

 事故の詳しい原因はまだ明らかにはなっていない。イージス艦は防空システムに重点が置かれているが、「最新鋭の自衛艦がなぜ衝突を回避できなかったのか」という漁民らの悲痛な叫びを重く受けとめ、通常の航海の安全確保についても総点検してもらいたい。



社説(2008年2月20日朝刊)

[空手4団体統一]

発展への新たな一歩に

 県内空手界主要四団体の統一組織、沖縄伝統空手道振興会が発足した。

 一九八一年滋賀国体で空手道が正式競技に採用された際に分裂して以来、二十七年ぶり。県空手界が仲井真弘多知事を会長に迎え大同団結したのだ。

 分裂のきっかけが全日本空手道連盟への加盟だったことを考えると、異なる団体が流派の違いを乗り越えて一つになることがいかに困難だったか、関係者の労苦には察するに余りあるものがある。

 統一の背景には、空手人口が世界百五十カ国、五千万人にも上るという状況の中で、本家本元の沖縄の空手界が分裂したままでいいのか、という多方面からの声が強まったことなどが挙げられる。外国の空手家が本場の空手を学びたいと沖縄を訪れても、県などが受け入れ先を紹介できない弊害が生じていたのだ。

 空手道の神髄を極めたいと志す者にとっては、自らが信じる流派・団体こそが絶対無比の存在だ。そこには他流派・団体と並び立つという発想は生まれてこない。それが統一に向けて意思が一つにまとまったのは、各構成団体の活動はこれまで通りに継続し、沖縄空手の保存と継承を大きな目的に据えたことにあった。

 これにより、これまで各流派・団体が個別に開催していた世界大会などの事業が一本化されるきっかけになるのをはじめ、人間国宝の輩出、空手会館の建設、十月二十五日の空手の日を軸にした啓発活動の推進などに期待が持てる。学校教育現場への普及にもさらに拍車が掛かるだろう。

 今日の沖縄空手界隆盛の根底には各流派・団体の競争意識と鍛錬があったのは言うまでもない。それが一つにまとまったのだ。さらなる隆盛を期待するとともに、メッカ沖縄の空手道・古武道を正しく継承発展させる出発点にしてもらいたい。

 流派・団体は異なろうとも、同じ沖縄空手を愛する者同士。今後、幾多の困難も立ちはだかるだろうが一致協力して、課題克服に取り組んでほしい。


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