ギョーザ事件は中国では自国に問題はないとする情報が広がり、日本では中国での混入を疑う声が一層、強まった。不信の連鎖を放置すれば、国民感情の悪化を招き日中関係を揺るがしかねない。
ギョーザを製造した「天洋食品」の底夢路工場長は十五日の記者会見で製造工程で農薬が混入された可能性を否定し「われわれは事件の最大の被害者」と強調した。「名誉が傷つけられた」と述べ賠償請求をちらつかせた。
これに先立ち、国家品質監督検査検疫総局の魏伝忠副局長も十三日の記者会見で「生産から輸出までの過程で人為的に混入された可能性は、ほとんどない」と中国での農薬混入を、ほぼ否定する見解を示した。
一方、警察庁は十六日、中毒被害の出たギョーザから検出された農薬の詳細な鑑定の結果、日本で製造されたものではないと断定した。
日本では農薬は中国で混入されたという見方が一層、強まった。
しかし、中国では徳島県が十四日、ギョーザの袋から検出された農薬が店内で使われた殺虫剤が原因だったと発表したニュースも大きく報道され、農薬混入は日本で行われたという認識が広がっている。
報道統制もあり、中国での混入を疑わせる情報は、ほとんど報じられていない。インターネットには日本が事件で中国のイメージを傷つけたと批判する書き込みが増えた。
事件をめぐり報道が行われるたびに、事件の原因を相手側に求め、先方がそれを否定することへの不信が募る。こうした雰囲気では、厳正な捜査は、ますます難しくなる。日中双方のメディアは、自国国民に聞き心地のよい報道に偏することを厳しく自戒しなければならない。
同時に両国の指導者、政治家の役割が重要だ。事件の当事者や政府の担当部門の声ばかり大きく聞こえるのは、どうしたわけか。両国の公安当局者も相互訪問を始める。捜査で真相が解明されるまでは、あらゆる可能性がある。それまでは相手側に責任を押しつけるべきでないことを両国の政府が明言するべきだ。
幸い今日から知日派として知られる唐家セン国務委員(副首相級)が、四月に予定される胡錦濤国家主席公式訪問の準備で来日する。日中が事件に取り組む原則を明らかにし、国民感情の悪化を避ける必要がある。
たまたま重慶で東アジアサッカーの日中戦が行われる日でもある。二〇〇四年夏に同じ重慶からサッカーの観衆が「反日」を叫ぶ騒ぎが始まった。両国にとっての悪夢は二度と見たくない。
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