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【編集局デスク】

「縁起物」の毒牙

2008年2月9日

 中国製ギョーザによる中毒のとばっちりで、売り上げが半減したギョーザ専門店もあるという。重体患者まで出した事件の衝撃は、それほど大きかったのだろう。

 奇妙な巡り合わせだが、その中国では逆にちょうどこの季節、最も大量のギョーザが胃袋に送られている。

 おととい七日が旧暦の元日で、旧正月のさなか。「春節」と呼んで、新年を大々的に祝う。北京など華北の人々にとって、春節の一番のごちそうがギョーザなのだ。

 里帰りで久しぶりにそろった家族が、大みそかに総出で具を包み、春節の間、水ギョーザに舌鼓を打つ。日本の年越しそばと、おせち料理を兼ねたようなものらしい。

 前北京特派員は、中国人の奥さんの実家でギョーザを振る舞われた経験がある。「いくつかに小さな硬貨が忍ばせてあり、その一つを私がかみ当てたら『今年は良い年になるよ』と祝福されて」

 もともと、あの独特の形は馬蹄(ばてい)形の銀貨をかたどったものとも言われ、ギョーザは財をもたらし、幸運を招くと考えられてきた。そんな縁起物が、こともあろうに日本で毒の牙をむこうとは。

 新たに別の有機リン系農薬も検出されるなど、汚染はさらに広がる気配だ。

 原因については、残留農薬説がほぼ消え、製造工場での袋詰め作業の前後に混入された疑いが強まっているようだが、まだまだ謎は多い。中国当局者は「故意による犯行」をほのめかし始めた。

 それにしても、日本側の輸入元や販売元の対応もお粗末だ。昨年十月初めに「異臭がする」と訴えを受けながら、袋しか検査せず、中身は調べずじまい。命に直結する食を預かる者としては、あまりに感度が低すぎる。

 私たち消費者にも反省すべき点がある。手間が省ける、値段が安いというだけで、顔の見えない食品に頼りすぎていないか。五感という立派な危機センサーを持っているのに、使いこなしているか。

 すでに冷凍食品から手作りへ回帰する動きも出ているという。安心を取り戻すため、今回の事件を、食卓を見直すチャンスに変えたい。

 (名古屋本社編集局長・加藤 幹敏)

 

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