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日本さえ安全ならよいのか・中国国内でも広がる穀物汚染(08/02/18)

■固体廃棄物の未処理放置は60億トン以上

ほぼ満杯になった化学肥料工場のリン石膏廃棄物堆積場<撮影:小柳秀明>

 

 農用地汚染のもう一つの大きな原因である固体廃棄物の未処理放置も、あまり騒ぎ立てられていないが隠れた大きな問題の一つである。私は以前からこの問題に注目していた。

 中国政府が毎年発表する廃棄物処理の統計データをよくみると面白い一項がある。最終的な処分方法が決まっていない廃棄物の量に関する統計(貯存量と表現されている)である。

 毎年2.5〜3億トンずつ発生し、累積では60億トン以上にも達しているはずだが、2001年以降累積量の統計データが発表されなくなってしまった。これがどの程度多いのかをほかのデータと比較すると、日本での1年間の産業廃棄物発生量は約4億トン、中国のそれは15億トンであるから、だいたい想像がつくだろう。

 未処理放置されている理由は様々であるが、たとえば、有効利用したいが今はその技術がないというものもある。写真は、私が重慶市の郊外の農業用肥料を作る工場を訪問した際に目にしたものであるが、副産物としてできるリン石膏が有効利用できずに長江沿岸の農地に山積みされたままであった。

 

山積みにされた堆積場の下には民家が迫っていた<撮影:小柳秀明>

リン石膏廃棄物の新規堆積場予定地は、谷間の農地だった<撮影:小柳秀明>

 

■中国国民の安全確保が日本の安全にもつながる

 中国政府はようやく土壌汚染の防止に向けて本格的に取り組み始めた。現在、約150億円を投入して全国の汚染状況を調べている。また、土壌汚染防止法の立法作業にも着手している。

 上述のような汚水灌漑により汚染が進行した地域に対する対策も進められつつある。そこには、汚染の存在を明らかにし、住民に警告を与え、住民を味方につけて攻めに出ようとしている中央政府の姿勢が読みとれる。(前回コラム:攻めに入った中央政府、地方の「地元政策」に対抗参照)

 汚染された穀物が闇から闇へと流れ、知らぬ間に私たちの口に入ってしまうことのないようにしっかり調査されること、中国国民の食の安全が確保されることが、ひいては私たち日本人の食の安全にもつながっていく。

 最近のギョーザ騒動をみていると日本は自分たちの安全のことだけしか考えていないような傾向が見え、これだけで良いのかとふと疑問に思うことがある。自分たちの安全確保はもちろん大切なのはいうまでもない。しかし、自分たちよりももっと身近で危険にさらされている人たちがいるということも忘れてはならない。

 そして、最後に、私たちが冷凍ギョーザ事件に端を発して中国側に食の安全を指摘し、圧力をかけることが、中国国民の食の安全にもつながっていくことを願っているし、皆にそういう目で見てもらいたいとも思っている。

[2月18日/Ecolomy]

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