先日、北海道の新千歳空港で日航機が離陸許可前に離陸のため滑走を始めるという事故がありました。
幸いなことに、緊急停機し大事故にはならずに済みましたが、あわや大惨事の事故でした。
今、国土交通省の航空・鉄道事故調査委員会による回収したボイスレコーダーの解析等の事故調査が行われていて、調査結果が出るのは4ヵ月後位とのことです。
はたして報道にあるように、機長のミスによる事故として片付けて良いものなのか、飛行機をよく利用するものとして非常に気になるところです。
以下に僕なりに今回の事故について考察しております。
相当な長文になりますので、
興味の無い方はスルーしていただき、興味のある方はお付き合いください。
今まで伝えられている報道の内容を整理すると以下のような事実のようです。
1.当時、新千歳空港は
大雪が降っていた。
2.大雪のため
有視界は500m程度だった。
3.そのためJAL502便は
離陸時刻を大幅に遅延していた。
4.JAL502便の機体には融雪剤が塗られていたが、
融雪効果の効果が切れる時間が迫っていた。
5.管制官は「
直ちに離陸できるように(滑走路上で)待機せよ」と指示を出していた。
6.JAL502便の
機長および副操縦士は二人とも「直ちに離陸せよ」と指示が出たと勘違いした。
7.機長、副操縦士とも、管制官からの
指示を復唱しなかった。
8.その後管制官は、許可無く離陸滑走を始めたJAL502便を発見し、
緊急停機を命じ滑走路上での大事故は未然に防げた。
この手の事故の場合は、誰が悪者かを探すことは実は重要ではなく、
なぜこうした事態が引き起こされたのかの原因を究明し、二度と起きないように改善することが重要です。
日航は1995年1月にも、同様の事故を起こしており、今回は当時の再発防止が有効に機能していなかったと、日航側(機長)の責任を追及する報道が一部見られています。
直接的には、機長の不手際(離陸許可が無いまま離陸滑走を開始した)ことが事故原因であるため、今のところJALや機長の責任は逃れられないと思います。
しかし、今回の事故は上に書いたような事実が背景にあったことを考えると、
JALや機長だけが責任を取ることで二度と同様な事故が起きなくなるのでしょうか?
上に書いた事実の中で僕的に気になるのは、直接的な
管制官と機長の交信である5と6の部分と、
背景となっている3と4の部分です。
5、6に関しては実際には英語による更新が行われており、報道によると管制官からの指示は以下のようだったみたいです。
日本語訳では「
直ちに離陸できるように待機せよ」となっていますが、英語では「
Expect immediately takeoff.」
これは
国土交通省のマニュアルには無い表現であり、しかも
通常では最終的な離陸許可を出す際に使用される「Takeoff:離陸」という言葉を離陸待機中の機に対して使用している。
さらに、もし機長側が「Expect:備える、待つ」の部分が
聞き取れなかったり聞いていなかった場合には「Immediately takeoff.(直ちに離陸せよ)」と正反対の意味となってしまう。
6では機長、副操縦士ともに聞き違えているということは、
現実的に「Expect」の部分が聞こえなかった可能性があり、もしくは
通常は離陸許可の際に使用される「Takeoff」が聞こえたために
「Expect」の部分が無意識のうちに思考から欠落した事が考えられるます。
こう言った聞き間違いや思い込みによる勘違いを防ぐために7のように管制塔からの指示を復唱することになっているのですが、
今の運用上では「すべての交信を復唱する」ことにはなっていません。
言い換えれば「どういう指示を復唱することになっているかが曖昧」だということです。
つまり、今回のケースのような場合は、
基本的には機長側が復唱するか否かを判断することになっているということです。
ここで問題になるのが、このときの機長側の心理面です。
機長側は、すでに乗客が搭乗している状況下で、大雪の影響で定刻を1時間近く過ぎてしまっていること、雪の付着を防ぐための融雪剤の効果がそろそろ切れそうなこと等から「
早く離陸したい」という「
焦り」の心理状態にあったと容易に想像できます。
こういった心理状態の中に置かれた機長側が、管制官との交信の中で「
immediately takeoff」の言葉を聞けば、その前の「
Expect」が聞こえていたとしても無意識のうちに聞かなかったことにしてしまったかもしれません。
しかし、たとえこのような追い詰められた心理状態であったとしても、管制官からの指示を正しく理解し、正しく行動していれば事故は起きなかったわけですから、JALや機長側は責任を逃れることは出来ませんが、大事なことは、今回の事故の「
犯人を逮捕し責任を追及すること」ではなく、「
心理面も含めた真の原因」を突き止めることによって
同じようなことが二度と起きないように対策を打つことです。
当日雪が降ってなかったら。
定刻に遅れていなかったら。
融雪剤の効果の切れる時間がずっと後だったら。
管制官が「離陸」という言葉を使わず「待機」だけを言っていれば。
機長が管制官の指示を復唱していたり、管制官から「復唱せよ」の一言があれば。
・・・・
もしそうだったなら、機長側は離陸行動を開始しなかったかもしれません。
現実の結果に対して「たら」「れば」はありませんが、この「たら」「れば」の中から、人間の力で防ぐことが出来る「
真の原因」を見つけ対策を打つことで、同じような事故の再発を防ぐことが可能になってきます。
機長側のミスの責任を追及するだけに終わらせず、真の原因を見つけ二度とこのようなこと(ひいてはこのようなことに起因する大惨事)が起きないように対策が取れるのか、事故調査委員会の報告から目が離せません。