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2008年2月19日

◎尊経閣文庫分館 事実上の誘致へ大人の知恵

 前田家ゆかりの「尊経閣文庫」の分館が今秋、石川県立美術館に設置されることになっ た。今年九月末に常設展示の契約が切れるため、分館というかたちで、常設展示を継続してもらう狙いだが、将来的な課題は、やはり東京都目黒区駒場の尊経閣文庫そのものを、石川県に誘致することだろう。国宝二十二点、重文七十六件を含む膨大な収蔵品は、日本の古典文庫のなかでは質、量ともに群を抜いている。分館設置が事実上の誘致運動の第一歩となるよう、大人の知恵を出し合っていきたい。

 尊経閣文庫は、前田家に伝来した典籍・古文書・美術工芸品など十万点といわれる膨大 な文化財で構成されている。主に五代綱紀の時代に、加賀藩の財力と威信をかけて集められた学術文化の一大コレクションといってよく、現在は財団法人前田育徳会が保存・管理している。

 石川県は一九八三年から前田育徳会との契約に従って展示の委託を受け、美術工芸品な どを主体に約五百点を常設、あるいは企画展のかたちで公開してきた。分館設置は、県立美術館での公開を続けていくための知恵ともいえるが、いかなるかたちであれ、尊経閣文庫の一部が金沢の地にあるという事実が重要だ。尊経閣文庫は、新井白石をして「加賀は天下の書府」といわしめた加賀藩の文治政策の象徴でもあると思うからである。

 東京・駒場の尊経閣文庫には美術館・博物館としての展示設備がないため、閲覧の対象 は事実上、研究者に限られており、一般の見学には応じていない。国宝や重文クラスの文字通りの国の宝を、来館者が自由に見学できる県立美術館での展示はそうした意味からも貴重であり、分館設置は歓迎すべきことである。

 名古屋市の徳川美術館には、尾張徳川家伝来の所蔵品が展示されている。県立美術館の 展示の柱もまた加賀藩伝来の収蔵品であってほしい。

 尊経閣文庫の誘致については、膨大な収蔵品を完ぺきに保存する収蔵庫の整備や、尊経 閣文庫を知り尽くした学芸員の配置というハード、ソフト両面での課題がある。どのような受け皿をつくっていくか、百年先を見通し、前田育徳会と石川県がじっくり話し合っていく必要がある。

◎コソボ独立宣言 日欧米の連携で支えたい

 この間、日本と友好関係にあるアルバニア共和国のサリ・ベリシャ首相らが来日したの は、バルカン半島のコソボ自治州のセルビアからの独立宣言に日欧米の支持を求めての地ならしだったのである。

 アルバニアはコソボ自治州と国境を接し、コソボの住民の九割がアルバニア系であるこ となどから一貫してその独立を支持してきた。そのアルバニアと日本との良好な関係は金沢を拠点に取り組んできた「民間外交」に負うところが大きい。政府は欧米とともにコソボの独立を支えてほしいものだ。

 多くの日本人はアルバニアにしてもコソボにしてもあまりなじみがない小国という認識 かもしれない。

 が、アルバニアはいうまでもなく、コソボと金沢の関係も浅からぬものがある。がんが 目の中にできたコソボの男児(当時三歳)が、コソボ紛争による爆撃のために治療の中断を余儀なくされたとき、金沢で設立されたばかりの日本・アルバニア協会の世話で一九九九年に金大附属病院で治療を続けることが可能になったのだった。

 そのアルバニア協会は、アルバニア駐日臨時代理大使のファトス・カーチク氏が九四年 のジャパンテントに九州大留学生として参加し、金沢で人脈を築いたことが土台になって発足したものだった。東京・築地の北國新聞東京会館内にアルバニアの駐日大使館が置かれたほか、飛田秀一北國新聞社社長がアルバニアの名誉総領事に任命されたのである。

 私たちが民間レベルの交流をあえて民間外交と呼び、欧米と一緒になってのコソボ支援 を望むのは、こうした背景でバルカン半島の平和や民族の自立を願う気持ちからである。

 コソボの独立に対して欧州連合(EU)と米国は、バルカン半島の平和や安定につなが るとして積極的だが、ロシアはバルト三国を除く旧ソ連諸国十二カ国の共同体(CIS)内部への飛び火を恐れることなどからセルビアとともに反対している。独立しても、国連への加盟は難しい見通しだ。なぜなら、加盟は安全保障理事会の勧告に基づき、総会で決めるからだ。失業率約40%ともいわれる経済的な困難もある。だから支援が必要なのである。


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