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第82回「磁気シールドの技術と材料」の巻
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磁束を吸収する強磁性体の磁気シールド効果
磁石の磁気はホオノキの材はもちろん、アルミニウムや銅などの金属さえも貫通します。しかし、磁石の磁気を遮蔽する物質は身近にも存在します。それは鉄です。鉄をはじめとする強磁性体は、磁束をよく吸収するために、磁気シールド効果をもつのです。
たとえば磁石はスチール缶を吸いつけますが、磁石をスチール缶内の中央に格納すると、磁気はスチール缶外部にほとんど現れなくなります。逆に磁石をスチール缶の外に置くと、スチールの磁気シールド効果により内部空間の磁界は微弱になります。
物質の磁束の吸収しやすさのことを透磁率といい、真空の透磁率との比を比透磁率といいます。銅や鉛などの非磁性金属の比透磁率は1前後ですが、鉄、コバルト、ニッケルでは1000以上もあり、このため磁束をよく吸収し、また磁石に吸いつくのです。
強磁性体には外部磁界によっていったん磁化されると、永久磁石となって磁化を保ち続ける硬磁性体と、外部磁界を断つと磁化をなくして元の状態に戻る軟磁性体とがあります。
純鉄や不純物の少ない軟鉄は、古くから知られてきた軟磁性体ですが、電気抵抗が小さいために、交流用のトランスコアなどに使うと発熱によるエネルギーロス(ヒステリシス損)が大きくなってしまいます。そこで、1900年に軟磁性ながら電気抵抗の高いケイ素鋼(鉄・ケイ素・アルミニウムの合金)が発見されたのを皮切りとして、1920〜1930年代にはパーマロイ、ケイ素鋼を改良した方向性ケイ素鋼、センダストなどのすぐれた軟磁性金属材料が相次いで開発されました。同時期に開発されたフェライト(ソフトフェライト)も、酸化鉄を主成分とする軟磁性の電子セラミック材料です。

図1 強磁性体による磁気シールド効果
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