患者に殴られた――「院内暴力」、都内病院で年2674件

クレーム、暴力、治療費不払い、損害賠償の実態明らかに

軸丸 靖子(2008-02-18 16:30)
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 理不尽なクレームや、殴る・蹴る・つねる・刺すの暴力、脅迫、支払い拒否に損害賠償請求訴訟――。

 「どこのやくざの話?」と思われた方へ。これは病院の医師や看護師が、私たち患者から日常受けている横暴の実態である。

 東京都内約200の病院で、2006年度1年間に確認された「院内暴力」は計2674件、1施設あたり13.3件、「苦情に伴う治療費支払い拒否」は727件、同3.6件にのぼるとの調査報告が、先日あった東京都病院学会で発表された。

 東京都福祉保健局(現国立保健医療科学院専門課程)の西塚至氏による研究。病院が抱えるクレームや医療トラブルの実態を調べた研究は国内ではほとんどなく、この規模での調査は「おそらく初めて」(西塚氏)という。

 調査では、東京都内にある660あまりの病院のうち、東京都病院協会の協力で344病院に質問票を配布した。回答があったのは210病院(回収率61.0%)。国公立や大学病院、一般病院、精神病院などが含まれていた。

医療トラブル対応に年680億円

 その結果、2006年度に患者から殴る・けるなどの「院内暴力」があったとした病院は133施設、計2674件(暴言を除く)で、1病院あたり13.3件と、毎月1件以上の暴力事件が起きていることが分かった。

 「これは病院長などの責任者に報告があったり、院内会議で取り上げられた数に過ぎない。医師や看護師が我慢しているレベルの件数を入れれば数10倍にもなるのでは」と西塚氏。

 患者からの暴力やクレームが原因で、職員が病院を辞めてしまうケースは、64病院計273件、起きていた。

 また、「苦情に伴う治療費・入院費の支払い拒否」があったとした病院は123施設727件に達した。経済的困窮や救急治療費の踏み倒しではなく、「気にくわないから払わない」といった「故意の不払い」が、都内でも相当数あることが示された。

 調査時点で、患者から損害賠償請求訴訟を起こされているとした病院は72施設計175件。調査に回答のあった病院あたり1件弱の訴訟を抱えているう結果だった。

 こうしたトラブルに対応するには、患者相談窓口の設置や通信費、研修費、治療費補填、人件費、裁判費用、賠償金などの経費がかかる。クレーム対応にあたった時間分働けなかった医師・看護師らの逸失利益もある。それらを含めた額を西塚氏が試算したところ、都全体で年およそ680億2400万円が、医療トラブル対応に費やされていることが分かった。

 都民の医療費総額(2005年度2兆8000億円)の2.4%にあたる額になる。医療費抑制政策の中で、膨れあがるトラブル対応費を「必要経費」とみるか「医療費の無駄遣い」とみるかは、意見の分かれるところではないだろう。

訴訟は関係悪化の原因に、公的機関の介入期待する声多く

医師と患者の意識のすれ違いは深刻だ(写真はイメージ)
 一般に、病院を相手取って起こされる訴訟やクレームは、患者からすれば、「医師の技術力不足」「医師の倫理観欠如」が原因であることが多い。

 だが、西塚氏がクレーム増加(※)の理由を病院にたずねたところ、過半数の病院が「患者のモラルの低下」「患者の医療機関への過度な期待」など患者側の要因を挙げ、医師側の問題とした回答は1~2割にとどまった。

 「クレームの理由を病院が患者に押しつけるように見えるかもしれないが、多くの病院は『自助努力では限界がある』と感じている」と西塚氏。

 研究ではまた、医療トラブルの解決には、自治体の医療安全支援センターといった公的機関の介入を期待する声が多いが、訴訟による解決となると「患者-病院」の関係だけでなく「行政-病院」の関係も悪化しがちであることも明らかになっている。

 現在は、医療トラブルを仲裁する機関はなく、こじれたらどちらかの泣き寝入りか裁判にもちこむしか解決策はない。だが、裁判はいわば、賠償額を決める場(民事)、あるいは刑罰を決める場(刑事)。そこでの争いが真相究明や納得、医療の質向上につながるとはいえない。西塚氏は、

 「たとえば、いって良いクレームとそうでないクレームを住民に理解してもらうことなどは公共の仕事といえる。消費生活センターのような形で、医療トラブルの解決に行政が積極的に関与していくことは、地域医療の質の向上に有益ではないか」

と提言している。


(※)東京都の医療安全支援センターが受理した相談件数は2001年度の9522件から2005年度に1万2227件に、3割増加した。このうち苦情は、01年度3652件から05年度5279件。全相談に占める苦情の割合が急増している。


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中島 雅淑
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