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【社会】

仮釈放中に不明300人  追いつかぬ保護観察

2008年2月18日 夕刊

 懲役22年では納得できない−。ショッピングセンターで生後11カ月の青山翔馬ちゃんを仮釈放中の氏家克直被告(37)が刺殺した事件の判決公判。遺族が望んでいた求刑通りの懲役30年に対し、判決は22年だった。「極刑でも傷は癒えないのに」と無念の表情を浮かべる遺族。事件の背景には、仮釈放になったまま行方が分からなくなる人が年間なお300人いるという国の仮釈放者対策が行き届かない現実がある。

 今回の乳児殺害事件を契機に、法務省は仮釈放者に対する保護観察を強化してきた。仮釈放中に行方がわからなくなる人の数は年々減っているが、昨年1年間で300人前後と依然として多い。背景には、実務を担う保護観察官や保護司の不足がある。仮釈放者をめぐる課題は残ったままだ。

 事件は、氏家被告が別の窃盗罪などによる服役から仮釈放されたわずか8日後に起きた。釈放時に身元引受人がいなかった氏家被告は、愛知県豊橋市の更生保護施設に入所。だが3日で抜け出し、訪れたショッピングセンターで犯行に及んだ。

 法務省は翌月の2005年3月から、仮釈放者を保護観察所の監督のもとで更生させる保護観察制度の見直しを進めた。

 仮釈放者は、住居を保護観察所に報告することになっている。所在がわからなくなった時に備え、刑務所での面会記録から仮釈放者が訪れそうな立ち回り先を事前に調べておき、所在がわからなくなったらすぐに見つけ出す体制を整えた。警察には、職務質問などで所在不明者が見つかった場合は、すぐに連絡するように協力を要請した。

 こうした対策はあっても、行方がわからなくなった仮釈放者の数は、事件のあった05年の482人から劇的に減っているわけではない。

 仮釈放者に対する保護観察官らの人数は、圧倒的に少ない。保護観察官約1000人に対し、保護観察対象者は約7万人。保護観察官1人で約70人を担当する割合になる。保護観察官と組む民間ボランティアの保護司は約4万9000人いるが、定員を3500人以上割り込んでいる。

 仮釈放中の再犯率は、職のない人が、仕事に就いている人の5倍以上と圧倒的に高い。再犯に走る仮釈放者のほとんどが、身寄りがなく仕事に就いていないなど生活が不安定な場合が多い。

 このため、法務省は厚生労働省と連携して、仮釈放者の職探しを支援する事業を06年度からスタートさせた。法務省の担当者は「所在不明者をゼロにするには、仮釈放をやめるしかない。少しでも減らすためには、不安定な生活から抜け出す支援が重要」としている。

 

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