◇「環境配慮」の試み、随所に 省エネの外板、生活排水処理、固形ごみ持ち帰り…--ユニバーサル造船・舞鶴事業所
新南極観測船「しらせ」の建造が、舞鶴市余部下のユニバーサル造船・舞鶴事業所で進んでいる。06年3月の起工から約2年。船体はほぼ完成し、いまは乗組員の居住部分などの設置作業が行われている。主に自衛隊の艦船や民間商船を建造してきた造船所作業員らが初めて手がけた南極観測船。厳しい自然環境下での運用に耐えられるよう特殊な機能を盛り込んだ船だけに建造には高い技術が求められる。緊張感が漂う現場を見た。【村上正】
◇毎日300人、「100年の技術」駆使
しらせは今春まで就役する同名の現役船の後継で、船体長などはほぼ同じだが、基準排水量は約1000トン上回る。定員も約30人増え、物資輸送量は8・5トンコンテナ56個を新たに設けるなどして100トン増えている。
建造場所は大型艦船用に使われてきた3号ドック(長さ245メートル、幅33メートル)。現場作業は大きく分けて▽船殻▽艤装(ぎそう)▽機関▽電気▽観測▽塗装--の6グループが担当し、毎日約300人が作業している。
建造にあたっての大きなポイントは「環境への配慮」。対策の一つとして、船体を形成する鉄板を2~3ミリのステンレス板で覆う。分厚い氷に衝突した際の摩擦を減らすため、従来は鉄板に特殊塗装をしていたが、塗料がはげてできた凹凸で船体との摩擦が生じやすい問題をこれで解決した。結果的に余分なエネルギーを使わずに済み、省エネ効果が期待できる。船体への外板増設は溶接が難しく、船首部分にとどめるのが通例で、船体の約半分に施すのは世界でも例がないという。さらに、融雪用の散水装置も備え、船底からくみ上げた海水(毎分約260トン)を船側の排出口から流して氷塊をぬらし、摩擦を減らして進みやすくする。
環境配慮の試みはほかにもある。処理装置を通して船の生活排水を排出し、粉砕処理装置を使って固形ごみもできるだけ細かくして持ち帰る。
建造統括の奥井啓悦さん(38)は今回初めて南極観測船の建造に取り組んだ。既にある技術で対応できる部分とできない部分を洗い出し、他の担当者と協議しながら経験上考えられる1000あまりの構造上の問題を挙げ、一つずつ検討しながら挑んだ。建造が難しいといわれる最新鋭船だが、造船所の技術について「(舞鶴海軍工廠(しょう)当時を受け継ぐ)100年の歴史の積み重ねがある」と自負する。
設計部門統括の根津和彦さん(35)も初めての体験。防衛省の要望が示された仕様書に沿って作業にかかったが、決められた予算や船体の規模で物資輸送量をどうすれば増やせるか「試行錯誤の連続だった」という。設計の大枠が決まると現場作業が始まり、その工程に合わせて細部の設計も進んでいく。遅れは許されない。設計は部屋のカーテンや帽子かけなど細かな内装にまで及ぶ。
2人の統括には強い味方がいる。舞鶴事業所顧問で先代しらせの元艦長、茂原清二さん(59)。99、00年に艦長として乗り組んだのをはじめ、南極へ計10回赴いた。観測船が氷と衝突するイメージや船の運用の仕方など、事業所でただ一人、現地を知る者ならではの貴重なアドバイスを提供している。茂原さんは初めて見た南極について「自然の力に圧倒された」と振り返る。乗組員の一人から建造に携わる立場となり、「今後、四半世紀を背負って立つ新しい船。活躍を期待している」と熱い視線を注ぐ。
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◇新「しらせ」
南極観測船は海上自衛隊に所属する「砕氷艦」。貨物船から改造され、1956年に就役した「宗谷」を初代とし、「ふじ」「しらせ」に続いて今回の新造船が4代目。全長138メートル、幅28メートル、喫水9・2メートル、基準排水量約1万2500トン。厚さ1・5メートルの氷を割り、3ノット(時速5・5キロ)で航行できる。物資輸送量は約1100トン、定員は乗組員179人、観測隊員80人。09年5月完成予定で、同11月の第51次隊派遣から従事する。
毎日新聞 2008年2月10日