憂楽帳

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憂楽帳:入れ墨

 薬害C型肝炎訴訟は今月、大阪高裁などで原告と国が和解した。C型肝炎と聞くと、ある元やくざを思い浮かべる。

 10年以上前、交通事故に遭い入院した。病室は大部屋で、その中に中年の元やくざがいた。やくざは辞めていたが、大柄な彼の腕や肩、背中には入れ墨があった。C型肝炎に感染しており、「入れ墨のせいかのう」とぼやいていた。

 その病院に、陽気な若い女性看護師がいた。ある朝、彼女が彼に点滴をするため、注射針を腕に刺そうとして何度も失敗。彼は「痛いやろが!」と怒鳴った。室内に緊張が走り、静まり返った。しかし、彼女も負けていない。「あんたな、血管か入れ墨か分からへんわ」。再び一瞬の静寂の後、彼は大爆笑。「そりゃすまん」。私も他の患者も大笑いした。その後、私は先に退院。互いに「元気で」と声をかけて別れた。

 C型肝炎はがんになる恐れがあり、国内の感染者は約200万人。一方、彼のように原因はよく分からないが、薬害に限らない肝炎患者への対策を定めた法案は、今国会で審議が進んでいない。早急な法整備を望みたい。【岡村昌彦】

毎日新聞 2008年2月18日 大阪夕刊

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