陸自が公開した新型戦車 (Photo:Getty Images/AFLO)
2月13日、防衛省が新型戦車を公開したことがさまざまなメディアで報道されました。この戦車は、直接的には旧式極まりない74式戦車の後継として配属される予定ですが、筆者はこの開発に疑問を呈するものです。
この戦車は、90式戦車が攻撃力、防御力で世界レベルに達した後、直面した重量による問題などを解決するためのものといえます。90式と同等の攻撃力(120mm滑腔砲はアメリカのM1A2とも同じです)を3人という同じ人数で運用できるうえ、重量を約10%程度削減しながら、新素材を適用して防御力を維持しています。
新戦車の売りの1つに、高度なIT化があります。これはアメリカのM1A2あたりからの流行ですが、戦場あるいは戦域の各部隊、各車両単位で戦術状況の情報の共有ができるようになる模様です。これによりゲリラの待ち伏せ攻撃にも強いものになるようです。
他の面をみても、砲塔は最近各国で流行のくさび型で耐弾性も高そうですし、従来のわが国の戦車に見られないほどのサイドスカートの装備は、車体側面への対戦車擲弾(先の不審船事案で北朝鮮の工作員たちが巡視艇に発射した旧東側で超ベストセラーのRPG−7など)の攻撃にもかなり効果があるかも知れません。
公表されている映像やスペックだけからは、よいことずくめではありますが、ここで問題にしたいのは、これで何をしたいのか?です。
今、陸上自衛隊の中部方面隊などに配備されている戦車は、すでに正式採用から18年を経た90式ではなく、さらにそれ以前の74式戦車という「骨董品」です。主たる敵が旧ソ連のT−62などであった、このオールドタイマーは、一部小規模な改造を受けつつも、基本的な装甲防御、主砲などに抜本的改修を受けないまま、配備期間のほとんどを過ぎようとしてます。
第10戦車大隊の74式戦車 (筆者撮影)
この74式と90式との実力差について、象徴的な話があります。1個小隊の90式に1個中隊の74式が演習で撃破されてしまっています。これは地形その他の条件もありますが、約3、4倍の兵力で戦ったのに撃破されてしまったのです。アメリカ軍のM−1戦車にボカスカやられた旧ソ連のT−72とどっこいどっこいでしょうか。もし仮に善戦したとしても、あくまで操作する戦車兵の練度に負うところがほとんどだと思われます。
この骨董品を更新するのは良い考えですが、1両7億円と言われる高価な新戦車で、何を敵とするか? そこが問題だと思います。
意図する、しないは別として、わが国に侵攻する能力(現状での渡洋侵攻能力)を持つであろう近隣の国は、今は懐かしいロシア、中国くらいでしょうか。ソ連崩壊以後、勢いのないロシア極東海軍はさておき、中国なら、搭載する戦車は 比較的新型の98式としても、072U型などの揚陸艦艇でも10両程度しか搭載できないようです。中国が、本格的にわが国に戦車を含む重装備をもって侵攻する能力を持つのは、まだまだ先のことでしょう。
そうなると、有事によりあり得るのは、小規模な歩兵部隊の侵攻などでしょう。ところが現実にはこれこそが、今もイラクで米軍を苦しめているわけです。現段階で最強戦車のアメリカのM1A2ですら、埋設されたIED(即席爆破装置)で撃破されています。対戦車地雷3段重ねくらいにして埋設して同時に炸裂させたり、航空爆弾の不発弾(500ポンドくらい)を改造したりして仕掛けられては、いくら最強の防御力を誇る戦車でも吹っ飛んでいるのです。自慢の120mm滑腔砲で撃破するに足る敵戦車は、まず来ることもなく、こそこそと地雷を仕掛ける歩兵などにやられていては……。
また、戦車そのものの根本的問題もあります。キャタピラを履いた車両である以上、そのままで長距離機動(高速移動)はできません。当然タンクトランスポンダー、つまり搭載量が50t近いトレーラーがいないと戦略的機動は不可能です。
それでは、有事の際に、かつてベトナム戦争の際にわが国の市民団体がやったような合法的輸送妨害にあうかもしれません。このとき、市民団体は武器をまったく使わず、戦場以外で戦車の輸送への「阻止攻撃」を実施し、それなりの成果をあげています。これは立派な「戦闘行為」であったと思うのです。
これらのさまざまな条件を考えると、わが国の新戦車について技術的には面白いものの、果たして必要な兵器なのか?と感じます。むしろ、耐弾性を向上した装甲車の車体をシリーズ化して、全体の機動力を増強するほうが、他の任務、治安出動、災害出動などにも有意義ではないかと思えるのです。先ほどあげた輸送妨害の場合でも、戦車ほど輸送ルートが限定されないため、妨害を受けにくいメリットがあるし、車輪式の装甲車のほうが、高速移動には向いてます。
自衛隊でよく言われる旧態墨守やら動脈硬化的な発想はこのさい一度、脇において、本当に必要なものに投資するよう、われわれ市民も見ていく必要があるのではないでしょうか。
次の記事では、陸上自衛隊の橋を掛ける演習にみられる問題点を論じたいと思います。
(田中秀郎)
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