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日本 自衛隊 NA_テーマ2
「敵」はどこ? 自衛隊最新IT化戦車の軍事価値に疑問
2008/02/16
陸自が公開した新型戦車 (Photo:Getty Images/AFLO)
 2月13日、防衛省が新型戦車を公開したことがさまざまなメディアで報道されました。この戦車は、直接的には旧式極まりない74式戦車の後継として配属される予定ですが、筆者はこの開発に疑問を呈するものです。

 この戦車は、90式戦車が攻撃力、防御力で世界レベルに達した後、直面した重量による問題などを解決するためのものといえます。90式と同等の攻撃力(120mm滑腔砲はアメリカのM1A2とも同じです)を3人という同じ人数で運用できるうえ、重量を約10%程度削減しながら、新素材を適用して防御力を維持しています。

 新戦車の売りの1つに、高度なIT化があります。これはアメリカのM1A2あたりからの流行ですが、戦場あるいは戦域の各部隊、各車両単位で戦術状況の情報の共有ができるようになる模様です。これによりゲリラの待ち伏せ攻撃にも強いものになるようです。

 他の面をみても、砲塔は最近各国で流行のくさび型で耐弾性も高そうですし、従来のわが国の戦車に見られないほどのサイドスカートの装備は、車体側面への対戦車擲弾(先の不審船事案で北朝鮮の工作員たちが巡視艇に発射した旧東側で超ベストセラーのRPG−7など)の攻撃にもかなり効果があるかも知れません。

 公表されている映像やスペックだけからは、よいことずくめではありますが、ここで問題にしたいのは、これで何をしたいのか?です。

 今、陸上自衛隊の中部方面隊などに配備されている戦車は、すでに正式採用から18年を経た90式ではなく、さらにそれ以前の74式戦車という「骨董品」です。主たる敵が旧ソ連のT−62などであった、このオールドタイマーは、一部小規模な改造を受けつつも、基本的な装甲防御、主砲などに抜本的改修を受けないまま、配備期間のほとんどを過ぎようとしてます。

第10戦車大隊の74式戦車 (筆者撮影)
 この74式と90式との実力差について、象徴的な話があります。1個小隊の90式に1個中隊の74式が演習で撃破されてしまっています。これは地形その他の条件もありますが、約3、4倍の兵力で戦ったのに撃破されてしまったのです。アメリカ軍のM−1戦車にボカスカやられた旧ソ連のT−72とどっこいどっこいでしょうか。もし仮に善戦したとしても、あくまで操作する戦車兵の練度に負うところがほとんどだと思われます。

 この骨董品を更新するのは良い考えですが、1両7億円と言われる高価な新戦車で、何を敵とするか? そこが問題だと思います。

 意図する、しないは別として、わが国に侵攻する能力(現状での渡洋侵攻能力)を持つであろう近隣の国は、今は懐かしいロシア、中国くらいでしょうか。ソ連崩壊以後、勢いのないロシア極東海軍はさておき、中国なら、搭載する戦車は比較的新型の98式としても、072U型などの揚陸艦艇でも10両程度しか搭載できないようです。中国が、本格的にわが国に戦車を含む重装備をもって侵攻する能力を持つのは、まだまだ先のことでしょう。

 そうなると、有事によりあり得るのは、小規模な歩兵部隊の侵攻などでしょう。ところが現実にはこれこそが、今もイラクで米軍を苦しめているわけです。現段階で最強戦車のアメリカのM1A2ですら、埋設されたIED(即席爆破装置)で撃破されています。対戦車地雷3段重ねくらいにして埋設して同時に炸裂させたり、航空爆弾の不発弾(500ポンドくらい)を改造したりして仕掛けられては、いくら最強の防御力を誇る戦車でも吹っ飛んでいるのです。自慢の120mm滑腔砲で撃破するに足る敵戦車は、まず来ることもなく、こそこそと地雷を仕掛ける歩兵などにやられていては……。

 また、戦車そのものの根本的問題もあります。キャタピラを履いた車両である以上、そのままで長距離機動(高速移動)はできません。当然タンクトランスポンダー、つまり搭載量が50t近いトレーラーがいないと戦略的機動は不可能です。

 それでは、有事の際に、かつてベトナム戦争の際にわが国の市民団体がやったような合法的輸送妨害にあうかもしれません。このとき、市民団体は武器をまったく使わず、戦場以外で戦車の輸送への「阻止攻撃」を実施し、それなりの成果をあげています。これは立派な「戦闘行為」であったと思うのです。

 これらのさまざまな条件を考えると、わが国の新戦車について技術的には面白いものの、果たして必要な兵器なのか?と感じます。むしろ、耐弾性を向上した装甲車の車体をシリーズ化して、全体の機動力を増強するほうが、他の任務、治安出動、災害出動などにも有意義ではないかと思えるのです。先ほどあげた輸送妨害の場合でも、戦車ほど輸送ルートが限定されないため、妨害を受けにくいメリットがあるし、車輪式の装甲車のほうが、高速移動には向いてます。

 自衛隊でよく言われる旧態墨守やら動脈硬化的な発想はこのさい一度、脇において、本当に必要なものに投資するよう、われわれ市民も見ていく必要があるのではないでしょうか。

 次の記事では、陸上自衛隊の橋を掛ける演習にみられる問題点を論じたいと思います。
(田中秀郎)




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[32842] 戦争を自分の身に置き換えて考えては
名前:加藤隆
日時:2008/02/18 16:09

田中さん


戦術的戦車の価値にについては私も同感です。
合理的な考えを持つ、自衛隊幹部も同じでしょう。現代戦において、行動範囲の限定された重戦車は、歩兵の発射する誘導ミサイルの餌食でしょう。人間一人に、戦車であれ装甲車であれ全て簡単に撃破されるでしょう。遠隔操縦技術を持ったゲリラには、いかなる兵器をもってしても勝てないことは、ベトナム、イラクの結果を見なくとも理解すべきでしょう。


私が自衛隊幹部なら、安いコストで軽い機動性の優れた装甲車を選ぶでしょう。田中さんも同じではないでしょうか。
問題はこの合理性が、今の自衛隊に通じないことです。大鑑巨砲主義から脱せられなかった旧海軍、全く合理性自体を否定してしまった旧陸軍と同じに、自衛隊が陥っているとすれば、非常に問題だと考えるわけです。

国家財政が破綻しようとするとき、役立たずの重戦車開発を決定した人間の顔を見たくて、コメントしたまでです。
たぶんこの愚かな決定をしたのは、自民党の長官でしょう。もし自衛隊幹部だったら、いつか来た道、日本の破滅は目の前かもしれません。


田中さんの土俵で議論するとこのようになりますが、しかし戦争の実態を、田中さん自身を当事者として考えてみてほしいです。私も以前、戦争を自分とはかけ離れたものとして、客観的に戦略戦術を考えるのが好きでした。


もしあなたが自衛隊員で、日本政府の命令で、海外の侵略戦争に駆り出されたとします。行くときはマスコミに騙されて、正義の戦争だと思ったのに、戦場に行ったら、多くの住民はゲリラとなった向かってきた場合、いったいあなたはどうするのですか。政府の命令だから自衛隊員はゲリラに殺されてもしょうがないといえるのでしょうか。


先の大戦で、多くの徴兵された兵隊が、戦場で何を思ったか、一度考えてほしいのです。



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[32822] 記事の補足を
名前:田中秀郎
日時:2008/02/17 16:19

今回の新戦車はあくまで量産を前提としていますので、
私としては、いかがなものか?との記事を書いております。

ですが、将来戦車についての開発は常に、不断の努力に
努めておくべきと考えるものです。
新型砲、やより性能の高いエンジン、新しい装甲材料、
などなどは先の書き込みにもありますとおり、継続した
研究がないと容易には生産に持ち込めないものです。

各構成要素の研究を地道にやっておけば、新しい
装輪装甲車にも適用したりできます。

そうして現在の憲法の下の体制で効率のよい防衛力を保持
する事を理想と考えてます。

また、海外派兵のことについて心配される向きもありますが、
現実にはこの戦車を投入するにはもったいないことがほとんど
と思われます。
相手にするであろう戦車はほぼ確実に我が新戦車より安いもの
でしょう(笑)
またこれを投入したら、エンジンは国産、車体も国産、火砲のみ
アメリカ軍と同じという程度の共通性しかありません。
燃料、弾薬以外の支援はわが国から自前で持っていくしか
ありません。
今就役しているおおすみ級輸送艦でもいくらも運べませんのに。
さらにトランスポーターも別に搭載なり現地での支援が必要
です。大量の戦車が来るならどうせ少数しか持っていけない
戦車より、MLRSやら対戦車ヘリ、航空自衛隊のF−2、
などで遠距離で効率的に破壊すべきでしょう。
大規模な戦車部隊による電撃的侵攻などは現代ではすでに
過去のものとなっています。
異常な支援車両の集中、など必ず兆候は何らかの
方法で察知されるであろうと思われますし。

いろいろ考えていますが、本当にこの新戦車、使いどころの
難しいものですね。








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[32819] 開発は継続するべきと思います、
名前:田中秀郎
日時:2008/02/17 14:17

加藤様
私は今回の記事において主張したかったことは、
あくまで従来の視点に囚われた戦車の開発について再考するべき
というものであります。
現状のわが国の防衛環境では従来型の戦車は使いにくい。
そのため装輪式の装甲車を中心に、というものです。
(ちなみにこのコンセプトに近いものはすでに開発が
かなり進行しています。)
このほうが、基本的に軽装備と思われるわが国に潜入する
部隊や非正規の戦闘員への対応に適していると思われます。

イラクでの戦場の状況をテレビで見る限り、敵の所在を特定
してそこに立てこもる敵をいぶりだすときくらいしか、M1の
ような重装備はあまり役立っていないようです。
これは先の戦争での市街地における戦車の用法とほとんど変
わっていません。
そもそも市街地で戦車を突っ込ませるのは、大戦末期のベルリン
攻防戦でもあったように、攻撃側も莫大な損害を受ける、
あまりお勧めできない戦術ですし。
残念ながら加藤様の危惧するような国内での防衛戦闘には
戦車は向かないと思われます。

なんといっても治安出動などは、まず数が勝負になると思います
から、重たい戦車を持ち出すにはいたらないでしょう。
現状の過激派程度の武装であれば機動隊程度の防御力の
ある車両で十分である
(せいぜい小銃弾程度に耐得る程度のもので)

また、通常の戦車の運用は意外と大変です。
わが国の戦車は90式以降、3人で運用されますが、
3人では戦闘以外の状況、待機中の周囲の警戒、戦車の
偽装など1人少ないばっかりに負担が大きくなっています。
キャタピラが破損した場合の交換など大変でしょう。
長丁場になりやすい警備などの場合、結構手間暇のかかる
装軌車両よりはあまり気にしなくてもいい装輪式のほうが
使いやすいことは目に見えています。

ただし、わが国の国民が選択した政権が、行けというなら
行くのが自衛隊です。
アジアで紛争が勃発して海外展開を求められたりした時、
相手がたとえ旧式であったとしてもそれなりの数の、戦車と
呼べるものを装備している国が相手なら、新戦車は必要にな
ります。

特に先の戦争でわが国の戦車は、それまで十分な予算が回って
いなかったおかげで、悲惨な戦闘を繰り返す羽目になっております
原因は、戦車に搭載するべき火砲についての研究が不足していた
ことにつきます。
今の時代、たとえ戦争といってもそれから研究していたのでは
間に合わない時代です。軍艦、戦闘機の装備品の納期は月単位
で図られるべき代物です。
日ごろからの研究の蓄積がなければとてもとても。

とはいえ、現状はまだまだ自衛隊の本格的な海外派兵は
一部の市民団体が警戒されるほどには、自衛隊の中の体制
が不十分です。
最近編成された中央即応集団くらいしかすぐには出せない
でしょう。一般の部隊を出せるくらいまでにはかなりの
時間がかかります。
以前のカンボジアPKOの準備に当たった方に聞いたこと
がありますが、機材以上に人選に苦労したとの事。
健康で優秀で、かつ精神的にも安定したものとなると、
未熟な若手は元気があっても行かせにくいし、ある程度
熟練した層では、今度は健康問題、家庭の問題など出てきて。
その元幹部の方はそのように使い述懐されていました。

戦車の開発の一つの方向としてはより大口径の砲をできるだ
けコンパクトな車体に積み、よりコンパクトで取り扱いやす
いパワープラントを搭載し、かつ動揺の少ない足回り、
その上で、十分な防御力を持たせる、に要約されると思います。
これを実現するには意外とあちこちの分野の技術を
結集しないと形にすることすらできません。

ついでに書いてしまえば、戦車の砲塔部分を支えるベアリング
については精度と強度を同時に求められます。
精密に戦車の大砲を支える部分であり、かつその大砲の
反動を受けながらもしっかりと支えるだけの強度がいります。
先の戦争ではそれを作るのが面倒なので砲塔を省略した
車両も多くつくられましたし、今もあります。

防衛力の整備はあくまで現実に即した形で行うべきです
が、次の時代がどうなるか?は常に見据えて先を見越した
機材の開発、などは地道に継続しておく必要はあると思う
次第です。






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[32810] 戦車開発を復活したのは誰だ
名前:加藤隆
日時:2008/02/17 10:37

戦車の開発は終わったと思っていた。
誰がこの無駄使いの極みである新型戦車開発にゴーサインを出しかである。


戦車を必要とするのは、国内戦であり、テロを含む局地戦であろう。戦争を放棄した我が国民は、また沖縄戦のような市民を巻き込んだ防衛線を国内で行おうとするのだろうか。
もう一つは、海外にアメリカ軍について出兵する場合に、戦車が必要になる。昨今の我が国民は、自分が行かなければ、これも容認しかねない。


誰がこの二つを目標戦略として進めているかではないだろうか。

しかしこの戦略自体、ナンセンスなことを、国民に説得できる政治家の登場を願うしかないか。

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[32798] おっしゃるとおりです。
名前:田中秀郎
日時:2008/02/16 22:11

伊吹様
これからの自衛隊については旧来の正規軍が敵というより
さまざまな敵について弾力的に対応できることが求められる
と思います。
例えば陸上自衛隊の駐屯地などを見ますと、各機能別の
駐屯地構成になっています。
京阪神に展開している第3師団の例では戦車は滋賀県今津、
司令部は兵庫県伊丹、火砲は兵庫県姫路、歩兵たる普通化は
伊丹、福知山、大阪信太山となってます。
そのため、どこの駐屯地でも自己完結した部隊がいないことに
なります。
滋賀県には戦車はいるけど、それを援護する歩兵は伊丹とか
にいる、、、ことになります。
近年の戦争は非常にテンポが速く、動員してからどうこうで
はなく現有の装備、人員でまず戦うこととなります。
そのような時代に未だに適応できていないのがわが陸上
自衛隊です。
自衛隊支持=右、反対派=左というような硬直した考え方
も捨てて、われわれの税金を投入されている自衛隊の装備
などにも関心を向けるべきと思います。

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[32794] 戦艦大和
名前:伊吹春夫
日時:2008/02/16 19:51

兵器の多くは、計画から実戦配備までに、相当の年月を要します。
計画立案の時には画期的な新兵器も「イザ実戦」となると時代遅れの長物であった・・。こうしたものが数知れずあるのは過去の歴史が示しています。我が国のような島国に、この様な戦車が本当に必要なのだろうか?。 国民1人ひとりが防衛費の使われ方にもっと関心を寄せるべきでしょう。


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