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関西テレビ:捏造発覚から1年 番組制作上の過剰な自粛懸念

 関西テレビ(大阪市北区)が制作し、フジテレビ系で放送された「発掘!あるある大事典2」の捏造(ねつぞう)発覚から1年が過ぎた。総務省から行政指導(警告)を受けた同社は、さまざまな再発防止策を打ち出してきた。この1年で何が変わったのか。【北林靖彦】

 ◇ハンドブック 「過ちは二度と繰り返しません」

 関テレは捏造発覚直後の昨年1月、有識者5人で作る外部調査委員会(委員長、熊崎勝彦・元東京地検特捜部長)に調査を委嘱。同委は、視聴者からの意見や苦情を第三者の視点で検討し、関テレに改善策を求める「活性化委員会」の設置や、科学番組のあり方を検証する番組の制作などを提案した。

 4月に入り、経営と番組関連について再発防止策をまとめる「関西テレビ再生委員会」(委員長、浅田敏一弁護士)が発足。再生委は「活性化委員会」の設置など、外部調査委の提案に沿った答申を5月末、片岡正志社長に提出した。

 学識者らで作る「活性化委員会」(委員長、浅田弁護士)が正式にスタートしたのは7月1日。今年1月の会合では「取り組みはおおむね順調」と評価したが、「番組制作において過剰な自粛は自由闊達(かったつ)さを損ねかねない」などの見解も示された。これとは別に元検事総長や大学教授を社外取締役に起用した他、弁護士資格を持つ契約社員を採用しコンプライアンス業務などに活用する予定だ。

 また、関テレ社員が作成し、昨年7月に全社員や制作会社スタッフに配布されたハンドブックの前文には、「過ちは二度と繰り返しません」とある。外部調査委員会が報告書の中で指摘した問題点を例示しながら、制作や取材の過程でディレクターや記者が迷った際の指針などを記載。他社からも評価されている。

 ◇丸投げ脱却へ 制作会社との関係、変化の兆しも

 再生委員会の答申に基づいて制作したのが健康情報番組「S-コンセプト」。関西ローカルで、昨年11月から毎月1回、土曜か日曜の午後に放送し、第1回は医師100人へのアンケートを基にダイエット情報の賛否を問うた。

 「あるある」のように断定調の結論を導かず、医師らの意見をありのままに伝え、視聴者に判断を委ねた。だが放送後、独自のダイエット法を番組内で提唱した出演者の一人が「イメージが損なわれた」と強く申し入れ、関テレは他地域での放送を見合わせた。再生委が懸念した「過剰な自粛」と受け取られかねない結果になった。

 また、「丸投げ」とは違う形で制作会社に企画を一任し、テレビ局と制作会社の対等な関係を目指すバラエティー番組「オッチモ!」は、毎週火曜深夜に放送している。

 2番組とも著作権は制作会社にあり、関テレが地上波放送権を持つ仕組み。別の教養番組を作った制作会社「クリエイティブ・ジョーズ」(大阪市北区)の三上義智社長は「契約書の厳守事項がいい意味で細かくなった。以前にはなかった」と変化の兆しを指摘する。

 しかし、「あるある」は全国放送だったが、この2番組はいずれも関西ローカルにとどまっており、視聴者への責任を果たすという点について、課題は残ったままだ。

 ◇民放連復帰は 北京五輪控え、全社員で嘆願書

 07年の関テレの年間視聴率はフジの人気番組に支えられ、「ゴールデン」「プライム」の「2冠」。「あるある」単独の影響はほとんどないという。インターネット広告などに押され、スポットCMの売り上げは減少傾向だが、23年連続在阪局トップの座は維持している。

 民放連への復帰見通しはどうか。昨年10月、片岡社長は「私どもからは言い出しにくい。真剣に番組を作って『関テレはちゃんとやってるから、復帰させてやろう』という声をお待ちする状況」と話した。

 大きく動いたのは先月30日。片岡社長や社員一同の名前で、再加盟嘆願の文書と経過報告書を民放連の広瀬道貞会長(テレビ朝日会長)に手渡した。今月7日には、関西の民放19社でつくる「近畿民放社長会」の大阪市内の会合で、片岡社長がこれまでの取り組みを説明した。

 これを受け、社長会は再加盟同意の意向を民放連に伝えるとみられ、民放連は理事会に諮ることになる。広瀬会長が「地元局の同意が前提」との立場をとっていることから、一連の動きは復帰への第一歩となる。

 関テレが再加盟を急ぐ最大の理由は、8月の北京五輪。除名のままではフジ系列で中継が予定されている柔道や野球の決勝を近畿地区では見ることができず、混乱が予想されるからだ。フジ系五輪中継番組のキャスター決定の資料が早くも「フジ・関テレ」の連名で送付されるなど、フライングもあった。

 一方で、「五輪ありきで、なし崩し的に復帰の道筋ができるのは納得できない」と話す民放幹部も少なくない。

 ◇下請けいじめに対処、総務省が検討会設置--支払い遅延、自社CM利用要請など調査

 「納入から支払いまでの期間が長く、下請法の観点から違法な取り決めであり、優越的地位の乱用だ」。関西テレビが設置した外部の有識者による「調査委員会」のまとめた報告書は、番組制作を関西テレビから受注した下請けの制作会社と実際に制作に当たった孫請け会社の間で交わされた再委託契約の内容をこう断じた。

 放送界の番組制作をめぐる委託契約では、下請け代金の支払い遅延のほか、特定物品の購入要請など発注者側による立場を乱用したいじめの横行が指摘されてきた。

 03年10月に発覚した日本テレビのプロデューサーによる視聴率買収工作問題。同社の調査委員会が公表した報告書によると、視聴率を買収するための工作資金を得るため、このプロデューサーは、番組制作費を制作会社などに水増し・架空請求させたうえで、キックバックさせていた。

 総務省の資料によると、番組制作契約など放送分野が改正下請法の規制対象となった04年度から3年間の同法違反件数は計118件。ある事業者はゴルフ大会など自社主催イベントのチケット販売を、番組制作を委託している下請けの制作会社に無償で行わせていた。別の事業者は、自社のテレビCMの利用を要請していた。

 こうした下請けいじめに対応するため、総務省は今年1月、放送事業者や制作会社、有識者で構成する「放送コンテンツの製作取引の適正化の促進に関する検討会」(座長、舟田正之・立教大教授)を設置。関係者による法令順守の状況などの調査を開始した。6月までにガイドラインをまとめる。【臺宏士】

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 ◆捏造発覚以後の経過表◆

07年 1月 関西テレビの情報バラエティー番組「発掘!あるある大事典2」の納豆ダイエット効果で捏造問題が発覚

    2月 菅義偉・総務相(当時)が放送法を改正し、捏造番組を流した放送事業者への新たな行政処分創設を表明

    3月 菅総務相が関西テレビに対して行政指導(警告)。再度生じた場合の停波にも言及

    4月 関西テレビの千草宗一郎社長が辞任し、後任に片岡正志常務が昇格。千草氏は、6月に取締役を退任して相談役▽日本民間放送連盟(民放連)が関西テレビを除名▽行政処分条項を盛り込んだ放送法改正案を国会提出

    5月 放送界の第三者機関「放送倫理・番組向上機構」(BPO)が捏造問題を取り扱う放送倫理検証委員会を設置

    7月 通常国会閉会に伴い、放送法改正案は継続審議に

   12月 自民と民主などが行政処分条項を削除した修正案を共同提出し、改正放送法が成立(08年4月施行)

毎日新聞 2008年2月18日 東京朝刊

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