国籍について

以下の内容は『国籍法』(法律学全集・有斐閣)を参考にしています。

国籍とはそもそも何でしょう。学問書では「人を特定の国家に属せしめる法的な紐帯(ちゅうたい)」とか「個人が特定の国家の構成員である資格を意味する」などと表現されています。国家の概念は近代国家が誕生した18世紀末から19世紀にかけて一般化したのだそうです。それ以前の封建国家では、領土は君主の所有物で、領民は土地の従属物とみられていました。近代国民国家では、封建制度に由来する忠誠義務を基礎とする臣民の概念は、国家の構成員としての国民の概念に置き換えられていきました。

国籍の機能


国籍の機能として国際法的機能と国内法的機能があります。国際法的機能として、外国にある自国民が不法・不当な扱いを受けたり、身体や財産を侵害された場合、本国は在留国に適当な救済を与えるよう要求することができます(外交的保護)。二つ目に他国の領域に在留することが許されない自国民を自国領域に受け入れる義務があります。国内法的機能として国籍国以外の外国人に制限されているのは、自由な出入国・居住の権利、参政権、公職就任権などです。また国籍国である国家への忠誠義務の表れとして兵役義務があります。

国籍唯一の原則


人は必ず国籍をもち、かつ、唯一の国籍をもつことが要請されています。しかし国籍は各国の法令で決められるもので、血統主義(父母のいずれかが自国民であることを要件に子に国籍を付与する)をとる国、生地主義(領域内で出生した子に国籍を付与する)をとる国などいろいろです。血統主義国の国民の子が生地主義国で生まれたら、子どもは重国籍になります。生地主義国の国民の子が血統主義国で生まれたら、無国籍になってしまいます。重国籍や無国籍の場合、どのような不都合が起こるのでしょうか。重国籍の場合、同一の個人が複数の国家から国民としての義務を求められることがあり、またどの国家の外交的保護を認めるべきなのか国家間や第三国との関係で紛争を生じることがあります。無国籍の場合、その居住国で不当な扱いを受けても、どの国からも外交的保護を与えられず、また居住国がその者に国外退去を命ずる場合、引き取りを要求する本国がないため取り扱いに困ることが出てきます。個人の権利も義務もいずれかの国家の法的保障のもとに実現されるところが極めて大きいという現実からすれば、人はいずれかの国籍をもつべきであるということが、基本的人権の一つとされるべきであるとされています。

国籍の取得


国籍の取得は出生によって取得するものと出生後の事由によって取得するものとがあります。出生によって取得する国籍を根源国籍といい、親子の血縁関係に基づくものと出生地との地縁関係に基づくものがあります。出生後の事由によって取得する国籍を伝来国籍といい、身分行為(婚姻・認知・準正・養子縁組等)によるもの、意思表示(届出)によるもの、国家行為(帰化)によるものがあります。日本も旧国籍法では身分行為による国籍の取得を認めていましたが、現行国籍法では準正による場合のみ、届出を条件として認めています。

出生による国籍取得


出生による国籍取得は血統主義と生地主義に大別されます。血統主義国家が自国国民から生まれた子に国籍を認めるもので、国家の構成員たる資格は親から子へ伝承されるべきものであるという考えに立っています。生地主義国家が自国内で生まれた子に国籍の取得を認めるもので地縁関係によって国家の構成員の資格を与えるものです。出生に伴う出生地との地縁関係の発生は、出生地における地域社会の構成員である住民の資格の取得を意味する、したがって自国内で生まれて住民としてその文化に同化した者を自国民とすることには合理性が認められるとするのが生地主義の根拠です。
しかし諸国の国籍立法は現実にはいずれか一方に徹底しているのではなく、両主義を併用しているようです。血統主義を原則とする国では、無国籍の子を防止するため、父母が知れないとき或いは父母が無国籍であるときなど補足的に生地主義を採用し、自国内で生まれた子を自国民とするとしているのが通例のようです。生地主義を原則とする国では、自国内で生まれた子については生地主義を貫きながら、自国民の子が自国外で生まれた場合、補足的に血統主義を採用し、父母いずれかが自国民である場合、無条件に或いは一定期間の国内居住等を条件として、自国の国籍を与える法制もあります。例えばアメリカ人と外国人との間の子が合衆国外・海外属領外で生まれた場合、その子にアメリカ国籍を与える要件として「アメリカ人である親が合衆国・海外属領に通算10年以上現実に居住した者であること」などです。

日本の場合


日本は血統主義を採っています。旧国籍法時代からずっと父系血統主義(出生のとき父が日本人であるなら日本国籍を取得)を採用してきましたが、両性平等の実現を求める内外世論の高まりや諸外国でも父母両系主義に改める国が顕著になってきたため、1984年(昭和59年)父母両系主義(出生のとき父母どちらかが日本人であれば日本国籍を取得)に改正されました。

国籍法では出生による国籍の取得を次のように定めています。
 第二条 子は、次の場合には、日本国民とする。
 一 出生の時に父又は母が日本国民である。
 二 出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であったとき。
 三 日本で生まれた場合において、父母ともに知れないとき、又は国籍を有しないとき。
一号、二号は血統主義による国籍取得を意味し、三号は生地主義を採用して無国籍者を防止するために血統主義を補完しています。

意思表示による国籍取得


1984年の国籍法改正で、法定の要件を備えている人については意思表示によって国籍が付与される制度ができました。法務大臣への届出で効力を生じます。

■準正にともなう取得
国籍法第3条1項は「父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得した子で20歳未満のもの(日本国民であった者を除く。)は、認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であった場合において、その父又は母が現に日本国民であるとき、又はその死亡の時に日本国民であったときは、法務大臣に届け出ることによって、日本の国籍を取得することができる。」と規定しています。
「父母の婚姻及び認知により」とは「準正により」という意味です。また認知者が子の出生時と届出時に日本国民であれば足りるとされています。準正子による国籍取得は20歳未満の子に限ります。日本国民である母から生れた非嫡出の子は出生と同時に日本国籍を取得するので、この条項が実際に適用されるのは出生時に父が日本国民であった非嫡出の子に限られます。

■国籍の留保をしなかった者の取得
「出生により外国の国籍を取得した日本国民で国外で生れたものは、戸籍法の定めるところにより日本の国籍を留保する意思を表示しなければ、その出生の時にさかのぼって日本の国籍を失う。」(国籍法第12条)。
生地主義を採用する国(例えばアメリカなど)で生れた日本国民の子は、生れて3ヶ月以内に国籍を留保する旨の届出をしなかった場合、日本国籍を喪失してしまいます。届出をしなかったことにより日本国籍を失った20歳未満の者は日本に住所を有する時は法務大臣への届出によって、日本国籍を取得することができると国籍法第17条1項で定めています。

■国籍選択の催告を受けたのち日本国籍を喪失した者の取得
「外国の国籍を有する日本国民は、外国及び日本の国籍を有することとなった時が20歳に達する以前であるときは22歳に達するまでに、その時が20歳に達した後である場合は2年以内に、いずれかの国籍を選択しなければならない。」(国籍法第14条1項)とあり、重国籍の人は国籍の選択をしなければなりません。法務大臣は期限内に選択しない人に催告をすることができます(同第15条)。15条2項3項の催告を受けて日本国籍を喪失した人が「国籍を有せず、又は日本の国籍の取得によってその国籍を失うべきこと」(国籍法第5条1項5号)に掲げる条件を備えるときは、日本国籍を失ったことを知った時から1年以内に法務大臣に届け出ることによって日本国籍を取得することができます(国籍法17条2項)。