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2008年02月18日(月曜日)付

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希望社会への提言(17)―パートも派遣も厚生年金に

 ・専業主婦にも保険料を払ってもらう

図

年金の仕組み

 ・低年金者は生活保護を受けやすくしよう

  ◇

 年金は税に頼りすぎず、保険方式を基本にしていこう。前回はそう提言した。問題は国民年金の保険料を払わない未納や未加入をいかに減らすかである。

 そこでまず、パートや派遣で働く人のうち、いまは厚生年金の対象になっていない約1200万人を対象に加えていくことを提案したい。この人たちにも未納や未加入が多いからだ。

 厚生年金の傘を広げることで年金の統合を進め、実質的に一元化していこうという考え方だ。

 非正規の労働者を厚生年金に加えることには、経済界から強い抵抗がある。企業は労働者と保険料を半分ずつ負担しなければいけないからだ。

 しかし、人を雇って事業をする以上、たとえ正社員でなくとも、その将来に対して応分の負担をするのは、企業の社会的な責任である。そんな意識を定着させたい。欧州では常識的な考え方だ。

 人を雇ったら、どんな雇用形態であっても必ず厚生年金に加入させ、給料天引きの保険料と企業負担の保険料を一括して納める。そういう制度にすれば、企業にとって非正規雇用を増やす「うまみ」が減る。それにより、非正規の雇用を抑制する効果も期待できる。

 

 

 新たな保険料負担は、とくに中小零細企業にとって重荷となるに違いない。だが、その我慢が従業員のやる気や企業の活力を生むことにもつながる。移行時には企業の負担を和らげるため、法人税の軽減といった支援策を考えたらどうか。

 この改革が進むと、パートで働く主婦はみんな厚生年金に入ることになる。いまサラリーマンの妻の専業主婦には、国民年金の保険料を払わなくても年金がもらえる「第3号被保険者制度」がある。ふつうパートの主婦はこの3号になっているが、厚生年金へ移るので、3号の人数はもっと減るはずだ。

 3号の制度には、働く女性との比較で不公平だとの批判が強いので、3号が減ったところで廃止した方がいい。残った専業主婦は国民年金とし、会社が夫の保険料と合わせて妻の保険料も給与の天引きで納めるようにするのも一案だ。

 左の下の図をご覧いただきたい。厚生年金の加入者がこうして増えていけば、国民年金に入る人は半減し、ほぼ自営業者だけが残ることになる。

 そうなると、徴収の事務にもっと真剣に取り組める。高所得の未納者を調べて強制徴収に力を入れればよい。逆に低所得で保険料を払えない人には、免除をきめ細かく適用できるはずだ。

 同時に、保険料を25年間以上払わないと年金がもらえない現在の仕組みは改めよう。25年では長すぎる。この高いハードルが未納を増やす一因であり、不公平も生んでいるからだ。

 

 

 しかし、それでも低年金者や無年金者を完全になくすことはできない。年金を税で賄う方式と比べた最大の弱点だ。それをカバーするため、例えば低年金者には生活保護をもっと受けやすくするような配慮を検討してはどうか。

 さらにその先は、自営業者らの所得をきちんと把握できるよう条件を整えて、全国民が同じ厚生年金へ加入することをめざそう。これを実現できれば、年金制度の一元化が完成する。

 さて、制度問題とは別に、果たして将来も年金の水準を維持していけるかという資金的な問題もある。

 年金保険料は厚生年金が給料の18.3%(労使負担の合計)、国民年金は月1万6900円までだんだん引き上げて、そこで固定することが決まっている。受け取る年金は、保険料収入に国庫負担や積立金の取り崩しも財源に加えて、その範囲内で決める仕組みだ。

 厚生年金の受給額はいま、現役時代の平均手取り収入の約6割の水準にある。高齢化が進むにしたがって下げざるを得ないが、それでも現役の5割余は確保できる、というのが政府の説明だ。

 プラン通りにいくか。もっと落ち込むのか。それは今後の経済成長や少子化の度合いによりけりだ。それが見えてくる十数年先になって、もしも5割を切る見込みになったら、65歳の受給年齢を引き上げるか、受給水準を下げるか、保険料を上げるかの選択を迫られる。

 安定成長と次世代の育成。それこそが年金制度を支えるカギである。

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