心臓移植が必要とされる拡張型心筋症の治療法「バチスタ手術」をモチーフにした医療サスペンス「チーム・バチスタの栄光」は、小説はスリリングに展開し、公開中の映画もリアリティーに富み、物語に引き込まれます。
相次ぐ術中死をめぐる犯人捜しの緊迫のドラマ。解決のカギに、「Ai(エー・アイ)」という言葉が登場します。
「オートプシー・イメージング」の略で、死体をCTやMRIといった画像診断機器で分析し、既存の病理診断と組み合わせて死因を判定しようという考え方です。
小説の原作者で現役医師の海堂尊氏は、著書「死因不明社会」(講談社ブルーバックス)で死を検証する解剖率の低下を問題視し、繰り返しAi導入の必要性を訴えています。
確かに、警察が扱う異状死体は全国で年間約十五万体もあるのに、九割は外表検査だけで死因が判断されている実情は見過ごせません。岡山県内では年間二千余体のうち法医解剖数は約百七十体にとどまるといいます。
今月七日、元親方らの逮捕で刑事事件に発展した力士死亡の件でも、遺族の申し出で解剖が行われなかったなら「病死」扱いとなり、立件されたかどうか分かりません。
「解剖率を高めるための人員確保や社会制度の整備に、優先的に取り組むべきだ」と、岡山大大学院の宮石智教授(法医学)は指摘します。解剖医らマンパワーの増加などを急ぐとともに、Aiの有効性を検討し、導入論議を深めることも死因究明のためには必要なことかもしれません。
(社会部・中田秀哉)