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ゴキブリ退治、苦闘の歴史 駆除商品と「進化」競い合い

2008年02月17日15時41分

 ギョーザ事件で新聞やテレビに頻出するようになった有機リン系殺虫剤ジクロルボス。家庭ではゴキブリなどを退治する殺虫剤として、意外に広く使われてきた。ゴキブリ殺虫剤の商品群の中で、ジクロルボスはどれほど主流派なのか。この機会に、ゴキブリ駆除商品の戦後史を改めてひもといてみた。少し季節はずれですが。

図表

主なゴキブリ駆除商品

 ギョーザ事件を受けて、業界最大手のアース製薬は今月初め、ジクロルボスを使った室内つり下げ型の蒸散剤「バポナ殺虫プレート」など数製品について、「用法用量や使用上の注意を守っていただけば問題はない」と、自社サイト上で安全性の説明を始めた。

 キンチョーブランドの大日本除虫菊は、ジクロルボスは業務用の一部に限られるとし、殺虫剤の開発について「常に安全性と効力の両立を目指している」と話す。

 ジクロルボスは有機リン系の殺虫剤として広く使われてきた。農薬としては57年に登録され、現在も野菜や果樹ではよく使われている。合成しやすく安価に製造できることが有機リン系の利点とされる。だが、毒性が高いことから、ゴキブリなど家庭用殺虫剤の分野では、ジクロルボス以外の殺虫成分への切り替えが進んでいる。

 例えば、くん煙タイプの代表的な商品「バルサン」の一部の製品では、85年からジクロルボスが使われたが、98年以降は、天然除虫菊の成分に似た化学物質ピレスロイド系など、より効果が高く人体への毒性は低い別成分に代わった。

 そもそも、61年発売の「バルサンジェット」は、当初の殺虫成分として有機塩素系のリンデンを使っていた。しかし、分解しにくい有機塩素系の危険性が社会問題化して、71年に国内での製造・輸入が中止され、ピレスロイド系などに代わった経緯がある。

 ゴキブリ駆除商品はいまや250億円市場ともいわれるが、注目されたのは60年代からだ。

 戦後しばらくはシラミが媒介するチフス、蚊による日本脳炎が流行し、ハエや蚊の駆除が政府挙げての課題だった。それがごみ処理施設や下水道が整備されて蚊やハエが減り、次第にゴキブリに関心が移ったという。

 「保温性が高いビルが増えて寒さに弱いチャバネゴキブリが越冬できるようになったのもこの時期だ」と財団法人・日本環境衛生センターの武藤敦彦次長は説明する。

 駆除商品は、バルサンなどくん煙のほか捕獲器、毒餌、エアゾールの4タイプに大別される。

 73年に登場した捕獲器「ごきぶりホイホイ」は大ヒット。以前の商品は、かごや容器で捕まえても水に漬けて殺さないと逃げ出す恐れがあった。入りやすく逃げられない構造を開発し、箱の中に粘着させたまま捨てられるようにした。3カ月で27億円の売り上げを記録し、当時の年商を上回った。

 エアゾールやくん煙と違い、殺虫成分入りのエサを食べさせる毒餌剤は、薬剤が拡散しにくい。ホウ酸ダンゴが主流だったが、89年に米国メーカーとの提携商品「コンバット」が発売された。ゴキブリが仲間のふんや死骸(しがい)を食べる習性を利用してヒットした。

 化学物質過敏症など微量の物質が健康に及ぼす影響に、消費者の関心はますます高まっている。

 そんな中、昨春発売された「氷殺ジェット」は5カ月で325万本も売れた。ゴキブリが直接の対象ではないが、薬剤を使わずガスの気化熱で虫を一瞬で凍らせる。エアゾールは業界で「100万本売れればヒット」といわれる。

 だが、商品の可燃性ガスに引火してやけどする事故が相次ぎ、自主回収に。効果と安全性の両立が課題となった。

 駆除商品の多様化・先鋭化に伴いゴキブリも「進化」している。

 10年以上前から有機リン系にもピレスロイド系にも耐えられるチャバネゴキブリが登場した。殺虫成分に弱い個体が死に、強い個体が成長・産卵を繰り返したためだ。

 このため、薬剤になるべく頼らない「総合防除」という考え方が広がり、劇場など利用者の多い建物は03年に義務化された。徹底した清掃と捕獲に、殺虫剤やくん煙を組み合わせ、ゴキブリを一定数に抑える方法だ。

 前出の武藤次長は家庭でも活用できるとし、「ゴキブリのエサやすみかを減らす。通り道がわかるなら捕獲器と毒餌剤を、くん煙は部屋全体で使うなど効果的な方法を選んでほしい」と話す。

 浦野紘平・横浜国大大学院特任教授(環境安全管理学)は、「化学物質の影響には個人差があり、大人と乳幼児でも違う。家庭用は比較的安全性が高いとはいえ、より低毒性の殺虫剤を選んだり、数が少ないゴキブリに大量の噴射をする過剰使用を避けたりするべきだ」と話す。同教授は殺虫剤の安全性評価などのデータベースをネットで公表している。

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