文部科学省がゆとり教育路線を転換した小中学校の学習指導要領改定案を公表した。一九九八年改定の現行指導要領が大幅に授業時間数と学習内容を削減し、学力低下批判を受けたことが背景にある。
改定案では小学校六年間で総授業時間数が現行から二百七十八時間(一単位時間は四十五分)、中学は三年間で百五時間(同五十分)増える。特に、国内外の学力調査の結果、理数系の応用力に課題が指摘されたことから、算数・数学、理科は大幅に授業時間を増やした。また、現行指導要領で削除された「台形の面積」や「イオン」などの学習内容を復活させた。
学力低下は深刻な問題だが、授業時間を増やせば子どもたちの学力が向上する確証はない。安易な知識偏重の詰め込み教育が行われるようになれば逆効果だ。改定案は、総則で「知識・技能を活用して課題を解決するための思考力、判断力、表現力を育成する」とうたう。理念は納得できるものの、狙い通りの教育効果を挙げることは簡単ではあるまい。
現行指導要領で導入され、ゆとり教育の象徴といえる「総合的な学習の時間」は、改定案で削減される。自ら考え、自らが行動して解決できるように体験的な学習や問題解決的な学習を重視する総合学習だったが、教え方や指導体制が確立せず、全般に教育現場では混乱が目立った。改定案が掲げる知識・技能の活用も、子どもたちに身につけさせる手だてを示さなければ、現場の悩みは深まろう。
安倍政権下の二〇〇六年に成立した改正教育基本法を受け、改定案には伝統と文化の継承・発展や公共の精神を尊ぶ日本人の育成が盛り込まれた。焦点になっていた道徳の教科化について、文科省は「人の心は数値で測れない」と見送ったものの、道徳教育は学校全体で行うとした。どう教えていくのか、議論をしていく必要がある。
中学体育では男女とも武道が必修となる。音楽では三年間に一種類以上の和楽器を使うことも明記した。指導教員のほか、武具や楽器の整備など課題になる。
新たな指導要領を検討してきた中央教育審議会は、教育効果を高めるには教師一人一人が子どもたちに向き合い、しっかりと指導するための時間のゆとりが大切と強調する。教職員定数を増やし、教材研究や施設改善など教育を支える条件整備の必要を訴える。だが、来年度の教育予算措置は十分ではない。教育に投資を惜しんでは日本の将来を危うくすることは間違いなかろう。
鳩山邦夫法相が法制審議会に民法で定める成年年齢を現行の二十歳から十八歳に引き下げることの是非を諮問した。
憲法改正の手続きを定めた国民投票法が昨年五月に成立したのに伴う措置である。投票権者が十八歳以上と規定されたからだ。ただ関連する民法や公選法の見直しが決まるまでは、公選法の通り二十歳以上に据え置かれる。
適用対象を二十歳で線引きする法律や政令などは三百を超え、大半が民法の成年年齢を根拠にしている。公選法や少年法、国民年金法、未成年者喫煙禁止法など国民の生活にかかわりが深いケースが多く、成年年齢の引き下げが社会に及ぼす影響は大きい。
法制審は関係官庁の意見を聴くなどして、約一年かけて結論を出す予定にしている。国民も積極的に議論に参加し、社会的な合意形成を図っていきたい。
法務省によると、海外では英国やフランス、米国の多数の州など十八歳以上を成人とする例が主流という。だからといって日本も、というのは早計だ。国の歴史や文化、社会環境などを踏まえ慎重に判断すべきである。
十八、十九歳の知識と判断能力は選挙権を行使するのに十分かどうか。見解は十人十色だろう。
十八歳といえば、収入があって税金を納めている人も少なくない。当然、選挙権を与えるべきとの意見は根強く、若者の政治参加を拡大する効果も期待できよう。一方で成人式での荒れようを見ると、まだ未熟で選挙年齢の引き下げなどとんでもないという指摘もある。
法制審は成人年齢引き下げのメリットとデメリットを国民に示し、議論を喚起していく努力も欠かせまい。
(2008年2月17日掲載)