「おばあちゃん、久しぶり。元気そうだね」
今年の元旦、神奈川県内の療養型病院に入院する84歳の祖母を親せき7人で見舞った。2年前に脳梗塞(こうそく)で倒れた祖母。ベッドに寝たきりで会話もままならず、介護の多くを病院にゆだねている。
「一人っきりでさみしいね。ごめんね」。か細い手首を握って話し掛けながら、涙があふれてきた。無言で前を向いたままの祖母の目も、光っているように見えた。
先月、木更津市のクリーニング店主が、87歳の母親の首を絞めて殺したとされる殺人事件。店主は「母親の認知症が進むのを見て忍びなく思った」と供述しているという。
取材を続け、店主が感じていたであろう介護苦を十分に察した。それでも人を殺すのは過ちだ。私の祖母は、この瞬間も、懸命に生きている。【寺田剛】
毎日新聞 2008年2月17日