東松山名物やきとり やきとりマップ
東松山名物やきとりのルーツを求めて(広報ひがしまつやま平成18年3月1日号より)
東松山市には「やきとり」ののれんを掲げる店が数多くあります。一般的に「やきとり」というと鶏肉を使いますが、東松山の「やきとり」はご存知のとおり、豚のカシラ肉を炭火で丹念に焼きあげ、辛いみそだれをつけて食べる独自のスタイルです。昭和30年代に誕生したこの味は多くの皆さんに親しまれ、半世紀にわたり、愛されつづけてきました。
東松山市の食文化を支えてきたやきとりのおいしさとルーツをたずねて、東松山のやきとりにかかわった3人にお話を伺いました。
■カシラ肉のルーツを探る
東松山市にやきとりが誕生する昭和30年代から、市内で精肉卸業を営み、現在、焼鳥組合会員店にも肉を提供している大野丑造(うしぞう)さん(材木町)にお話を伺いました。
東松山やきとりは鶏肉ではなく豚のカシラ肉を使いますが、このカシラ肉とはどの部分ですか。
豚のほほとこめかみの部分です。1頭に約1.5kgもあり、余分な脂身をとると約1.2kgになります。現在でも1日約120kg、約100頭分のカシラ肉を、市内約40のやきとり店に卸しています。こんなにカシラ肉が食べられているのは全国的にもあまりないんじゃないですか。
カシラ肉がやきとりに使われるようになったのはなぜですか。
昭和30年代、カシラ肉はホルモンなどと同様にあまり食肉としては使われず、おもにハムやウインナーなどの加工肉食品の材料に使われていました。昔は、肉は高級品でしたので、なかなか食べられませんでしたが、近くには食肉センターがあり安価で新鮮なカシラ肉が手に入りました。この肉を朝鮮出身の方が屋台で焼いて出したのが始まりだと聞いています。
カシラ肉はどのように仕入れるのですか。
今は食肉センターからきれいにさばかれたものが納品されてきます。食肉センターが滑川町にあったころには、わたしも豚のカシラ肉をさばいたことがありました。1頭のカシラ肉をさばくのに、30分くらいはかかりました。昔はやきとり店でも店でさばいて串に刺し、出していたところもたくさんありましたよ。今は昔と比べるとずいぶん楽になりましたね。
肉は新鮮なほうがおいしいのですか。
肉は基本的に新鮮なほうがおいしく、レバーなどの臓物は新鮮さが大切なので絞めたその日に卸しています。カシラ肉はさばいてから10度以下の温度で一晩寝かせることで、肉がしまり旨みが増します。絞めて直ぐは肉質がまだダラダラとした柔らかい状態で、串に刺すのも大変です。繁忙期にはカシラ肉が足りなくなり、この柔らかい状態でも刺していた時もあったようです。
カシラ肉のよくしまった筋肉には独特の歯ごたえと旨みがあります。硬い部位なので焼いてすぐ食べないと、硬くなるので焼きたてがおいしいです。
東松山のやきとりは、カウンター越しで焼き上げたものをすぐ食べてもらうことで、おいしく食べられますね。
■みそだれのルーツ探る
みそだれ発祥のやきとり店として知られている大松屋の店主の黒瀬タツ子さん(本町)にお話を伺いました。
やきとり店をはじめたのはいつごろですか。
戦後の厳しい時代に、うちの夫は働きたくても仕事があまりありませんでした。当時、寄居町に住んでいましたが、鉄筋運びなどの重労働をして資金を工面し、昭和31年にホルモン焼きの屋台を開きました。これは、当時あまり食べられていなかった白モツを焼いて、甘いしょうゆだれで食べるものでした。
白モツからカシラ肉を使うようになったのはなぜですか。
小腸を使っていた当時の白モツは、ゴムのような食感でかみ切れず、食べづらかったので、何かほかに使えるものはないかと考えていた時に、白モツ同様にあまり使われていなかったカシラ肉を知人に勧められたのがきっかけです。
東松山市に移ったのはいつごろですか。
昭和33年ごろから、寄居町で店を出していた繁華街も急激に人通りがなくなり、お客も減ってしまいました。当時、東松山市にあるやきとり店にも串に刺した肉を提供していて、東松山市には大きな工場があり、そこで働く従業員が多くいたこともあって、昭和36年、東松山市に移りました。このときは屋台も知人に頼み、トラックで運んでもらいました。
東松山やきとりに欠かすことのできないみそだれを使い始めたのはいつごろですか。
寄居町でホルモン焼をしている当時から、現在のものとは違いますが、甘だれの上から辛いみそをホルモンにつけて食べていました。夫は韓国出身でしたので豚肉に辛いたれをつけて食べた味を思い出し、このようなたれを調合していたようです。
この味が評判となり東松山周辺に広まったのですね。
東松山市に移ってからは作り方を教えてくれとよく言われました。当時は何人も店にきて一緒に作っては、自分の店に持ち帰っていました。最初は一緒に同じ物を作っても、持ち帰ってその人独自の味にします。これが、みそだれのおもしろいところであり、いいところです。
みそだれの原型ですね。
当時のみそだれは今よりずっと緩くできていて、ポタポタとたれ落ちるようなものでした。昭和40年代になるとネクタイをしたサラリーマンも多くなり、よくこぼしているのを目にするようになりました。「お客さんがみそだれで服を汚しちゃいけない」と夫に言うと、夫は試行錯誤を重ね、現在の粘り気のあるみそだれに改良しました。
みそだれも長い年月をかけて、時代とともに独自の個性を出しながらできあがってきたのですね。
■東松山のルーツを探る
東松山やきとりの魅力をよく知り、東松山焼鳥組合長を25年もつとめている青木萃美(すいよし)さん(神明町)にお話を伺いました。
東松山市に全国で初の「焼鳥組合」ができたのはいつごろですか。
この組合は昭和30年代に、肉の安定供給、値段の協定などを行うために、当時営業をしていた7店が集まり結成されたと聞いています。現在では、毎年4月に組合員がそろって関東近県へ親睦を兼ねて総会旅行に行っているんですよ。
やきとりの値段はいくらだったのですか。
昭和35年当時は5円で、その後10円、20円と10円きざみに上がっていき、約20年間ずっと100円を維持しています。都内から来たお客さんなどは、「こんなに安くて大丈夫なの」と心配してくれる人もいます。
安さの秘けつは。
自分の店で肉を刺しているからでしょうか。パートさんなどにお願いして刺すのでは、なかなかこの値段を維持していくのは難しいと思います。多くの店が長年経営していますので、難しいと言われている串刺し作業も、経験とコツで行っているのです。
また、ネギはおもに深谷から取り寄せている店が多いのですが、雪が降った時などは値段が高騰する時もあります。普段は5kgで2,500円くらいが、高かった時は1万円くらいになったこともありました。けれども東松山のやきとり屋という看板を目当てに来てくれる人が大勢いるので、値段はなかなか変えられないですね。
東松山やきとりの決まりはありますか。
やきとりと言えばカシラを出すという点で共通していますが、肉の切り方や刺し方、みそだれの作り方、焼き方まで、お店によってそれぞれ特徴があります。
東松山やきとりがここまで根付いたのはなぜだと思いますか。
なんと言っても独特の歯ごたえのあるカシラ肉のうま味とネギの甘さ、ピリッと辛いみそのハーモニーが絶妙にからみ合ったからではないでしょうか。
豚のカシラ肉は鶏肉に比べて脂肪が少なく、炭火で余計な脂肪も落としてくれるので、最近の健康ブームでも注目されています。
東松山やきとりのおいしさの魅力は。
東松山やきとりに欠かせないみそだれを、どの店も独自に調合しているので、店によっていろいろな味を楽しむことができます。やきとりの種類もカシラのほかに、タンやレバー、ハツ、ナンコツなどを出す店や、やきとり以外のおつまみが充実している店もあるので、お気に入りの店を探せるのではないでしょうか。
また、カシラは焼きたてがおいしいので、お客さんが食べたのを見計らって次のやきとりを焼き上げるようにしています。おみやげにしたいというお客さんもいますが、焼き立てのおいしいものを食べてもらうためにお断わりしている店が多いんじゃないですか。
どの店もやきとりをおいしく食べてもらうように工夫を独自にしていますね。
■ちょっとひとこと
人口1万人あたりのやきとり店が全国で一番
東松山市は、人口一万人当たりのやきとり店が約7.2店あり全国で一番です。ちなみに室蘭市は約6.4店、今治市は約4.7店です。
1本で何グラム
東松山のやきとりは店によっての違いはありますが、1本で約50gのカシラ肉を使います。普通の焼鳥と比べると2倍近くあります。1頭のカシラからつくれるやきとりは、約24本となります。
■日本三大やきとり
東松山市のやきとりは北海道室蘭市、愛媛県今治市のやきとりと並んで「日本三大やきとり」と言われています。ともに共通するのは近くに大きな工場があり、室蘭では製鉄所、今治では造船所がありました。これら仕事帰りの従業員が一日の疲れをいやすために立ち寄り、やきとりをつまみながら一杯飲んで、明日への活力にしていたと言われています。
| |
室蘭市のやきとりも東松山市同様、豚肉を使います。串に刺した豚肉とタマネギを炭火で焼き、甘いたれをつけた後に洋がらしをつけて食べます。やわらかく焼けたジューシーな豚肉にタマネギのまろやかさと洋がらしのアクセントが絶品です。また、豚肉の種類も豊富に取りそろえているのも魅力のひとつです。
| 今治市の焼鳥は、斜めに作られた熱い鉄板で焼きます。鉄板が鶏の油を切り、パリッとしたうま味のある焼鳥になります。一番人気メニューは「トリ皮」で、そのカリカリとした食感と鶏の脂とうま味を残しながらさらっと仕上げ、甘だれとの絶妙なバランスがおいしさの秘密です。
|
問合せ 東松山市観光協会(市商工観光課内 電話23−3344)