2008年度の診療報酬改定では、病院勤務医の負担軽減策(勤務医対策)が緊急課題になっている。病院の産科や小児科などに勤務する医師が過酷な労働環境に嫌気をさして開業に走ることなどに歯止めを掛けるため、勤務医対策に1,500億円を投じる。「焼け石に水」「微々たるもの」という指摘もある1,500億円、一体どのように使うのだろうか。果たして効果は上がるのだろうか。(新井裕充)
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診療所の再診料引き下げ、見送り (2008/01/30) 厚生労働省によると、産科や小児科をはじめとする勤務医対策に充てる1,500億円の内訳は、▽ハイリスク妊産婦、救急搬送の診療報酬引き上げ分(150億円弱)、▽小児専門病院の診療報酬引き上げ分(50億円強)、▽中核的な病院を入院医療に特化させるための外来縮小の評価(150億円強)、▽医療クラーク(医師の事務作業の補助)の診療報酬(350億円強)、▽手術などの技術料の引き上げ分(600億円)、▽その他、安全対策や院内検査などの評価(250億円強)――となっている。
これは、診療所の再診料をめぐる議論が決着した1月30日の中央社会保険医療協議会(中医協、会長=土田武史・早稲田大商学部教授)で、厚労省が明らかにした。改定をめぐる議論が大詰めを迎えた段階になって、なぜこのような資料が出てきたのだろうか。
年明けから議論が活発になった「診療所の再診料引き下げ」をめぐっては、診療所の再診料引き下げによる財源を病院勤務医の負担軽減に充てることを主張する診療報酬の支払側に対し、会員の半数以上を開業医で占める日本医師会が猛反発していた。
このため、中立的な立場にある公益委員が最終的な判断を下すことで決着を図ることに診療側と支払側が合意(1月25日の中医協総会)。その際、土田会長は公益委員の判断資料として、厚労省に対して勤務医対策の財源に関する資料の提出を求めた。
その後、1月30日の中医協の総会で、厚労省は1,500億円に関する資料を提示。診療側と支払側から最終意見が出された後、公益委員が裁定を下して診療所の再診料の引き下げを見送った。
■ 「意図的な資料」
「この資料は意図的な感じがする。診療所の再診料を引き下げなくても出る計算ではないか」――。支払側の対馬忠明委員(健康保険組合連合会専務理事)が強い口調で不満を表した。
公益委員が最終判断を下した1月30日の中医協総会で厚労省が出した資料は、診療所の再診料を引き下げなくても必要な財源を出せる内容になっており、「再診料を引き下げない」という結論を後押しする資料だった。
厚労省は、1,500億円のうち1,000億円強は目処が付いているが、残りの400億円強に「追加的な財政支援が必要」と説明した。
その選択肢として、(1)再診料の引き下げ(約120億円)、(2)外来管理加算の算定要件の見直し(約240億円)、(3)デジタル映像化処理加算の廃止(約100億円)、(4)検査判断料の引き下げと軽微な処置の包括化(約200億円強)――を挙げた。
これらを合計すると660億円強となり、必要な400億円強を上回る。この説明に対し、対馬委員は「中立性、公平性を欠く」と反発した。
そして、この日の議論は「勤務医対策は1,500億円で足りるのか」、「勤務医対策を診療報酬で解決できるのか」という点に及んだ。支払側は「1,500億円では足りない」と主張し、診療側は「診療報酬での解決には限界がある」と反論した。
■ 国民に分かりやすい議論を
「1,500億円では足りない」(支払側)、「診療報酬での解決には限界がある」(診療側)という議論を立ち止まって考えてみると、「1,500億円では足りない」という意見はむしろ病院団体の代表などから出るべき意見ではないだろうか。あえて主張しなかったのは、「1,500億円では足りない」という意見を出すと、「財源が足りないので診療所の再診料を引き下げるべきだ」という結論につながるからだろう。
一方、医療費を支払う側が「1,500億円では足りない」と主張するのも奇妙だ。対馬委員は「再診料の引き下げこそが、勤務医や国民に分かりやすい明快かつ象徴的なメッセージ」と主張した。対馬委員の「再診料引き下げ」に対するこだわりは、政管健保の肩代わりで約1,000億円の拠出を強いられたことへの“恨み”を晴らそうとしているようにも見えた。
勤務医対策の内容や予算に関する資料が最終段階になって出てくるのもおかしい。民間企業であれば、最初に予算と実施計画のプレゼンテーションがなされるはずだ。
1,500億円の使い道も分かりにくい。ハイリスク妊産婦や救急搬送の受け入れを診療報酬で高く評価すれば、病院は増収になっても勤務医の負担は増加するのではないか。救急たらい回し」への対応策は当然必要だが、「勤務医の負担軽減策」に位置付けられている点が分かりにくい。
むしろ、1,500億円は「へき地医療に取り組む30病院に50億円ずつ支給するので、医師を確保してほしい」というメッセージの方がまだ国民に分かりやすいように思える。
「分かりにくいことだらけ」の診療報酬改定。次回は、もう少し国民に分かりやすい議論をしてほしい。
更新:2008/02/16 17:30 キャリアブレイン
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08/01/25配信
高次脳機能障害に向き合う 医師・ノンフィクションライター山田規畝子
医師の山田規畝子さんは、脳卒中に伴う高次脳機能障害により外科医としての道を絶たれました。しかし医師として[自分にしかできない仕事]も見えてきたようです。