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社説:新型インフルエンザ 手抜かりのない危機管理を

 人から人に容易に感染する「新型インフルエンザ」の出現リスクが高まり続けている。

 インドネシアでは鳥インフルエンザウイルスの感染による死者が100人を超えた。全世界で確認されているだけで360人が感染し、そのうち6割以上が死亡している。実際はもっと多くの人が感染している可能性がある。

 ウイルスはまだ「鳥型」にとどまっている。だが、鳥のウイルスが蔓延(まんえん)するほど、「人型」の新型インフルエンザウイルスに変化するリスクは高まる。アジアなどニワトリと人が密接に暮らす地域での感染防御には、日本をはじめ世界が力を入れる必要がある。

 ただ、それでも新型インフルエンザの出現は避けられないと考えられ、大流行(パンデミック)を念頭においた備えが欠かせない。

 日本は新型対策のための「行動計画」と「ガイドライン」を策定している。これに基づき、抗インフルエンザ薬のタミフルを2800万人分、鳥型ウイルスから作ったプレパンデミックワクチンを2000万人分、今年度中に備蓄する。

 ただ、これで十分という考えには異論もある。不足すれば奪い合いになる恐れがある。タミフルに耐性を持つインフルエンザウイルスも出現しており、新型が出現した時の薬の有効性も気にかかる。

 プレパンデミックワクチンは医療従事者や社会機能維持に携わる人に投与することになっているが、具体的な投与の仕方はどうするのか。投与を受けられない国民が不満を感じることもあるだろう。新型出現後にウイルスを入手してワクチンを迅速に作る手立てや、接種の優先順位も重要な検討課題だ。

 医療機関の体制にも不安がある。通常の外来とは別に設置する「発熱外来」がすみやかに設けられるか。ベッドや人工呼吸器などの医療機器、医師や看護師などが十分確保できるかなどを点検し、着実に備える必要がある。企業や個人が備えるべき課題もあり、それぞれに準備しなくてはならない。

 政府は新型インフルエンザ発生時に、患者の強制入院や感染の恐れのある人の隔離などを迅速に行えるよう、感染症法と検疫法の改正案を今国会に提出している。ただ、人権にも配慮した隔離場所の確保など、具体的な検討課題は残されている。

 新型インフルエンザの大流行を描いたテレビドラマなどをきっかけに国民の関心が高まってきたが、これまで政府の対応は危機意識が薄かった。首相のリーダーシップも発揮されず、それが国民の関心の低さにもつながっていたのではないか。新型インフルエンザは国の安全保障にかかわる課題であり、国民の命を守るため、国が一丸となって準備体制を整備することが欠かせない。

毎日新聞 2008年2月16日 東京朝刊

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