現在位置:asahi.com>社説 社説2008年02月16日(土曜日)付 新指導要領―教師力の育成が先決だ学習指導要領は、文部科学省がそれぞれの教科の時間数や各学年で教えるべき内容を決めているものだ。 その小中学校の指導要領の改訂案がまとまった。11年度以降、この内容に沿った授業が全面的に始まる。 指導要領は約10年ごとに改訂されている。今回の特徴は40年ぶりに授業時間数と教える内容を増やしたことだ。小学校の高学年で新たに英語も取り入れた。 その心は次のようなことだろう。 学力低下が批判される中で、ゆとり教育などと悠長なことはいっていられない。授業時間を増やすしかない。知識を活用する力が足りないといわれているから、知識の量を増やしつつ、知識を活用できる授業時間をひねり出したい。 では、この指導要領によって学力が上がり、日本の子どもたちの弱点である考える力が育つのだろうか。 たしかに授業時間を増やすことで解決できる問題はあるだろう。むずかしい内容についても、時間をかけて教えれば子どもたちの理解は進むかもしれない。 だが、学力の底上げや考える力を育てるためには授業に工夫が求められる。まして、教える内容が増えるのだから、教師への負担はいっそう重くなる。 授業の質は教師の量と質にかかっている。本来は教師をもっと増やし、教師の質も高めなければならない。文部科学省もそうした条件整備が必要だと認めているのに、指導要領を変えただけで、手をこまぬいているように見えるのはどうしたことか。 これで、さあ目標を達成しろといわれても、現場としては羽がないのに空を飛べといわれているようなものだろう。 指導要領の運用にも注文をつけたい。 その分量は小中学校とも100ページ以上に及ぶ。何をどこまで教えねばならないかを学年ごとに細かく決めている。 私たちはこれまで社説で、こんなに細かく規定することに疑問を投げかけてきた。時間数も内容も幅を持たせて現場の工夫にまかせた方がいい。指導要領から逸脱しているなどと文科省が口をはさむことはできるだけやめてもらいたい。 もうひとつ忘れてならないのは、教育基本法が改正されて初めての改訂だということだ。改正基本法に「愛国心」が盛り込まれ、今回の指導要領には道徳教育の充実が定められた。 教育再生会議が強く求めていた道徳の教科化はさすがに見送られたが、道徳教育推進教師が学校ごとに指定され、全教科を通じて道徳心を教えることになった。武道の必修化もその流れにある。 道徳心を子どもに教えることは必要だが、特定の価値観を画一的に押しつけるようになっては困る。どのように教えるかは教師たちにまかせた方がいい。 指導要領は学校現場に示した目安ぐらいに考えるとともに、子どもたちの学びやすい環境づくりに力を注ぐ。そうした姿勢こそが文科省に求められている。 新銀行東京―石原知事は失敗を認めよ「そんなに存続させたいのなら、石原さんが個人で出資したらどうか」。そんなことを言いたくもなる。 石原慎太郎都知事の肝いりでつくられた「新銀行東京」の経営が窮地に陥った。そこで、都が300億円程度を追加出資する話が持ち上がっている。 4年前に発足したとき、都は1000億円を出資した。民間出資も加え、資本金は1187億円。だが、昨年9月の中間決算で累積赤字が936億円に達し、資本金の8割近くが食われてしまった。 その後も好転せず、3月末の本決算を乗り切れるかどうか分からない。都としては増資で決算をしのいだあと、本店だけに店を絞るなど業務を大幅に縮小して存続を検討しているようだ。 民間から増資に応じてもらえないか、経営陣は要請して回ったが、断られ続けたという。当然だ。 実際には、決算の数字以上に融資が焦げ付いているのではないか。存続といっても新たな収益源が見当たらない。そう疑っているからだ。この銀行は生き残れそうにない、と民間から判断を下されたと言っていいだろう。 私たちは昨年6月に「都は撤退を決断すべきだ」と主張した。経営はさらに悪化してきた。存続をめざせばよけいな経費をかけることになり、かえって傷口を広げるに違いない。これから追加出資するなど、とんでもない話だ。 いま都がすべきことは、撤退への道筋を一刻も早く定めることである。 まず、金融庁に検査を要請する。監督当局の目で、融資がどのくらい傷ついているのか厳しく査定してもらう。撤退へどのような手順をとるかは、査定の結果によって異なってくるだろう。 本来なら、急激な業績悪化が露呈した昨年春の時点で、こうした処置に乗り出すべきだった。そうしていれば、いまごろは撤退計画が動き出していたろう。後手に回ったのは残念だ。 新銀行東京は「石原銀行」と呼ばれるほど知事主導の事業だ。03年の再選の知事選で公約に掲げたころは、既存の銀行の貸し渋りがまだ残っていた。だが銀行が開業したときには、カネ余りの世へ一変していた。都が中小企業融資へ乗り出す必要はなくなっていたのだが、知事は反対を無視して突き進んだ。 融資先のなかには、新銀行のおかげで起業や存続ができたところも、なくはないだろう。しかし、借りて間もなく倒産したり、もともと実態がないのに書類だけで審査を通ったりした先が少なくない。これらが焦げ付いた。 一種の社会実験のような政策だったが、生き馬の目を抜く厳しい金融の世界で、お役所仕事の新銀行はもみくちゃにされ、食いつぶされたわけだ。 都民は1000億円の出資金を、もうほとんど失ってしまった。いま石原知事に課された責任は、撤退へ方針を転換し、それをスムーズに進めることしかない。 PR情報 |
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