◎輪島沖で共同操業 漁業の構造改革を促す試み
石川県漁協輪島支所で試行が始まった刺し網漁の共同操業は、漁業者をグループ化して
船を効率的に動かし、コスト削減や操業の時間短縮を図るという点で漁業の構造改革を促す画期的な取り組みと言える。最終的にはグループ内での収益分配も検討されており、そうしたルールが確立すれば無駄な競争も省かれ、漁業経営はより計画的、組織的なものとなる。
輪島支所は県内屈指の七百八十隻の漁船を有し、軌道に乗れば他の漁港のモデルケース
となるだろう。同支所によると、刺し網漁の共同操業は全国でも初めてであり、「輪島方式」としてぜひ定着させてほしい。
漁業経営が高コスト体質から抜け出せない要因として、他の産業にはみられない過剰な
競争が指摘されている。漁船は他船に負けまいと全速力で好漁場を目指し、漁場に着いてからも漁獲高を上げようと探し回るため必要以上に燃料費がかかる。さらに競争の中でエンジンなどの性能をよくし、過大な設備投資を強いられるという悪循環に陥りやすい。
漁業経営は燃料費の支出割合が高く、原油高の影響は他の産業以上に深刻である。この
ため、輪島支所は漁業者をグループ化する協業化促進委員会を昨年末に設置し、海士町刺網実行組合が今月九日、七ツ島周辺でフクラギの共同操業を試行した。
指示船を含む五十八隻が決められた時間に出港し、経済速度で航行したところ、燃費は
かなり低く抑えられた。漁獲量を競わないため、使用する漁網数も従来の半分で済み、網から魚を取り外す作業も共同で実施した結果、大幅な時間短縮が図られた。輪島支所では共同操業が鮮度の維持にもつながることを期待している。
漁業者は互いがライバルだけにグループ化は収益配分で調整が難しく、全国でも成功例
はごくわずかである。輪島支所の試みは原油高騰から生まれた窮余の一策と言えるが、共同操業は競争に伴う事故の防止や資源管理に役立つなど利点は多い。
他の漁でも、たとえばイカ釣りでは自分の漁船にイカを集めるため、それぞれが集魚灯
の光を強くする競争がコスト高の要因とされてきた。共同操業という発想は、漁業の高コスト体質を改善する切り札になりうるのではないか。
◎中医協答申 後発薬普及へテコ入れを
後発医薬品(ジェネリック医薬品)の普及に力を入れる富山県にとっては、願ってもな
い追い風だろう。中央社会保険医療協議会が答申した〇八年度の診療報酬改定案に、後発薬の利用促進策が盛り込まれた。後発薬は医療費抑制の「切り札」の一つとされながら、政府の狙い通り普及しないため、薬局の報酬増などでテコ入れを図ることにしたものだ。
富山県は後発薬の利用促進のため昨年、薬局や製薬メーカー、病院関係者らによる連絡
調整会議を設置した。厚生労働省は富山をモデルに、関係者の意見交換の場づくりを支援することにし、必要経費を〇八年度予算案に計上している。石川県もこれを機に、後発薬の普及を図る態勢の整備を考えてもらいたい。
後発薬は先発薬(新薬)と主成分が同じで、価格はその三割から七割と安い。政府は医
療費縮減のため、二〇一二年までに後発薬のシェアを30%に引き上げる目標であるが、まだ17%程度にとどまっている。
新たな利用促進策は、後発薬の調剤率が三割以上の薬局に対する調剤基本料の加算と、
医師の処方せんの様式変更が柱である。薬局にはこれまで、後発薬を増やすメリットが特段なかっただけに、調剤基本料の優遇は、後発薬の普及へ薬剤師の背中を強く押すことになろう。
また、処方せんは現在、後発薬への「変更可」という欄に医師が署名する形になってい
るが、新しい様式はこれとは逆に、後発薬への変更に支障がある場合にだけ「変更不可」欄に署名する。後発薬への変更を前提にした処方せんにすることで、普及に弾みがつくとみられる。
ただ、後発薬の使用を最終的に決めるのは患者自身であり、その理解を深める努力がさ
らに求められる。後発薬に変更すれば薬代が大幅に安くなることは分かっていても、薬効などに不安を抱く患者が少なくないといわれる。製薬会社は後発薬の信頼性の向上や供給体制の安定化に一段と力を入れる必要がある。
薬局側にはこれまで、種類の多い後発薬の説明に手間ひまがかかるため、後発薬への切
り替えを患者に勧める労を避ける傾向があるとされるが、後発薬への理解を促す努力を厭わないでもらいたい。