中央社会保険医療協議会(中医協)が二〇〇八年度の診療報酬改定案を了承し、舛添要一厚生労働相に答申した。
医師の技術料などの本体部分は八年ぶりにプラス改定されることがすでに昨年末、決まっている。今回はその枠内での配分作業で、焦点は病院勤務医対策として開業医の再診料との格差をどう是正するかだった。
その点、勤務医対策に約千五百億円を投入する一方で格差是正は小幅にとどまった。課題を先送りした形だ。
中医協は付帯意見で、開業医の再診料を次回改定で抜本的に見直す方向を打ち出している。答申の不十分さを自ら認めたようなものだ。これでは「医療崩壊」の処方箋(せん)には程遠い。
国民皆保険制度のもとで日本の医療体制は世界的にも優良とされてきた。それが近年、急速に荒廃が進んでいる。
危機的現場の一つに病院の勤務医が挙げられる。献身的な長時間労働などで疲弊しきって現場を去る人材が後を絶たない。それが残った勤務医の負担をさらに過重にする悪循環で、医師不足に拍車をかけている。
深刻さは本県も同じだ。県が医師を採用して市町立病院へ派遣する「ドクタープール制度」に応募がなく、医師確保の難しさを浮かび上がらせた。喜多医師会立内山病院(内子町)のように病院そのものが休止に追い込まれる事例もある。
答申では、なるほど勤務医の負担が顕著な産科や小児科、救急部門を手厚くする狙いは伝わる。その点では評価できる。
たとえば、緊急搬送の妊産婦の入院、高度な小児医療を行う専門病院の入院、勤務医の事務を補助する医療秘書の配置などに対し、診療報酬加算の新設や拡大をする。診療所の夜間・早朝開業促進は、患者の振り分けに有効にちがいない。
一方で開業医(診療所)七百十円、勤務医(中小病院)五百七十円と格差のある再診料は、勤務医側を三十円引き上げて六百円とするにとどまった。厚労省のめざした開業医の引き下げは、衆院選をにらむ自民党と会長選を控える日本医師会の反発で断念に追い込まれた。
開業医も痛みを分かち合っていないわけではない。勤務医対策の財源の一部にするため外来管理加算を減らした。
とはいえ小泉純一郎内閣以降の医療費抑制方針のもとでは対策も小手先にならざるをえず、効果にはおのずと限界がある。
日本の国内総生産(GDP)比の医療費は先進国中で最低水準だ。医師不足も偏在だけの問題ではなく、人口当たりで先進国の約三分の二にとどまるという絶対数不足の現実がある。
各方面でひずみが噴出する状況でなお医療費抑制路線を堅持するのかどうか。根本から議論していい。
むろんそれには無駄の徹底排除が条件になる。同時に、限られた財源を有効活用するため勤務医と開業医の格差などにどう対処するか、日本医師会は身内の利害を超えて国民に納得される方策を打ち出すべきだ。