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2008年02月15日(金曜日)付

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法相冤罪発言―仏の顔も三度だ

 【冤罪】 罪がないのに、疑われたり罰を受けたりすること。無実の罪。ぬれぎぬ。

 「大辞林」にはそう書かれている。

 選挙で買収したり、買収されたりしたとして住民らを次々に逮捕し、最長1年1カ月も拘束して、うその自白を迫る。関連の捜査では、「早く正直なじいちゃんになってください」と孫の名前で書いた紙を無理やり踏ませる。

 こんな乱暴な捜査で起訴された12人全員が無罪判決を受けた鹿児島県議選の選挙違反は、事件そのものが鹿児島県警によるでっちあげの疑いがきわめて濃い。一審判決もそのことを示唆し、検察は控訴を断念した。これを冤罪といわずして何というのか。

 ところが、全国の検察幹部が出席した会合で、鳩山法相が「冤罪と呼ぶべきでない」と発言した。

 その後、鳩山氏は自らの発言について次のように釈明した。

 冤罪は、無実の罪で有罪判決を受けてそれが確定した場合だ。富山の強姦(ごうかん)事件では、被告の有罪が確定して服役した後に、真犯人が明らかになった。一方、鹿児島事件は無罪判決が出ているので、冤罪とはいえない。

 鳩山氏は「無罪判決をすべて冤罪というと範囲が広くなりすぎる」とも述べた。一般的に、「疑わしきは被告の利益に」との刑事裁判の原則が適用されて灰色無罪となるケースがある。それまで冤罪というのは抵抗があるという趣旨なら分かる。

 しかし、鹿児島事件は灰色無罪ではない。捜査の方法にこそ様々な問題があったことは最高検も認めている。それを冤罪ではないといわれたのだから、元被告らが抗議声明を出したのも当然だ。

 一方で、鳩山氏は釈明の中で、「被告と呼ばれた方にご迷惑をおかけし、社会通念上は冤罪といわれても致し方ない」と述べた。前言を事実上、訂正したようにも受け取れる。

 いずれにしても、法務行政を預かるトップの発言としては、なんとも浅はかで、軽すぎるというほかない。

 やりきれないのは、鳩山法相が今回のような軽率な発言をこれまでも繰り返していることだ。

 死刑について、「法相が絡まなくても執行が自動的に進むような方法はないか」と語り、死刑制度の勉強会を省内に設けた。その一方で、就任5カ月間で計6人という異例の速さで死刑の執行を命じている。

 外国特派員協会の講演では、「友人の友人がアルカイダ」と述べ、物議をかもした。私たちはこのとき、「そうした大事なことについて軽口をたたくようでは、法相の資格はない」と指摘した。

 鳩山氏は安倍前首相によって法相に任命された。福田首相がそのまま再任した。しかし、ここにいたっては、福田首相の任命責任が問われている。

空港外資規制―排除の論理は通らない

 海外からの投資を呼び込もう。でも本当に来たら……ちょっと困る。

 そんな総論賛成・各論反対を、また繰り返そうというのだろうか。国土交通省が空港の運営会社に対する外資規制の法案を今国会へ出そうとした。

 これにはさすがに政府・与党内からも「日本市場が閉鎖的だというメッセージを海外に与えかねない」という反対論が強まり、宙に浮いている。福田首相が先月のダボス会議で「市場開放努力を一層進める」と言って対日投資を呼びかけたばかりなのに、というわけだ。

 発端は、以前から上場している羽田の空港ビル運営の「日本空港ビルデング」株式の20%弱を、豪州系ファンドが買い集めたことだ。そこで、外国人の保有比率を3分の1未満に制限し、これから民営化を考えている成田や関西、中部の各空港も対象にする案をつくった。

 規制の根拠は「国際空港の安全保障」である。テロやハイジャック、鳥インフルエンザなどの水際阻止には規制が必要というのだ。しかし、「だから外資規制を」というのは短絡的だ。

 グローバル化の時代に海外と結ぶ玄関として、空港は重要な公共空間だ。施設運営は厳しいルールのもとで、安全で効率的に進めなければならない。安全保障に配慮するのも当然である。

 そのために、入国管理や検疫、税関、警備は政府が担っている。空港会社も公共性に沿った運営をする義務を負っている。現在すでに、そのような状態になっているはずだ。まだ不安があるのなら、ルールをさらに整備すべきだ。

 それさえ整えば、空港会社の株主が外資であろうと、制限する必要があるとは考えにくい。

 空港会社は国交省の重要な天下り先になっている。こうした利権を守る口実に安全保障が利用されているとしたら、許されないことだ。

 海外では空港へ外資規制をしている国もあり、米国は空港を州公社などが管理している。フランスやドイツは政府が空港会社の株式を保有する方式だ。政府のかかわり方はさまざまである。

 もし政府の関与を残さないとどうしても心配なら、これから民営化する成田などは段階的に政府保有株を放出したらどうか。大丈夫と判断できるまで一定の株を保有すればいい。

 いま政府はもう一つ決断を迫られている。電力卸最大手・Jパワーの株を約10%もつ英系投資ファンドが買い増しを申し出ている問題だ。政府は外国為替法で中止や変更を勧告できるが、こちらも結論が出ず、審査を3カ月延長した。

 空港も電力も公益がかかわる以上、一定の規制は当然だ。検討すべきは、必要十分な規制をしているかどうかである。資本の内外は関係ないはずだ。

 空港も電力も、行政と一体となってきた。外資が入ることは官業のなれ合い体質を改める機会にもなるのではないか。

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