2007年11月30日

「緑色の坂の道」vol.3864

 
       十二月の雨。
 
 
 
■ 九月にも雨は降った。
 十月にも、十一月にも、雨は、それが定まったことわりであるかのように降っていた。
 九月の雨は、夏の名残を洗い流した。歌の文句にあるように、九月の雨は肩口に冷たかった。
 十月はよく覚えていない。
 十月はふたつある。という漫画があったが、その作者は吉祥寺に住んでいる。
 十一月になると秋は切実になってくる。
 空が少しづつ高くなり、風が尖り始め、ビルとビルの隙間が赤く染まるようになってゆく。
 
 
 
■ 途中、代々木の公園で車を停め、雨に打たれているツリィを暫く眺めていた。
 この時間と雨では、見上げる人は誰もいないというのに、点滅を続ける姿はなにか感じのあるものだった。
 君は冬の夜の水銀灯を見上げたことがあるか。
 私は見上げた。
 ちちちっ、と小さく音を立てながら、冷たく、堅く、それでいて脆く、その下に立てば、物みな苛酷な翳を帯びる。
 私は、十二月の雨の夜の、くぐもった水銀灯のような気分だった。
「暖かいけど、そうかしら、泣かせるって程でもないわ」
 帰り際、彼女は私の手を取ってそう言った。
 
○緑坂 vol. 446
 

「緑色の坂の道」vol.3863

 
       東京湾岸アンダー 4.
 
 
 
■ レインボー・ブリッジの下側を60~80程度で渡って、目の前に結構頑張るトヨタやホンダの小型車がいたりする。
 3.5リッターのワンボックスはちょっと踏ん張れず、後に下がるのだが、日頃営業で千葉界隈から来ている若手はこの道を熟知していた。
 
 
 
■ 左に曲がれば東雲。
 まっすぐで大きな展示場のある方面に流れる。
 デジタル黎明期の大手各社はこの辺りに係長課長クラスを派遣した。
 30近く、癖のある御稲荷さんの手前みたいな妙齢が一緒だった。
 
 
 
■ トンネルの出口で、トレーラーが右に入る。
 私はウィンカーを出しながら呼吸を読む。
 プロの邪魔をしてはいけない。
 相手がプロの場合はである。
 
 

「緑色の坂の道」vol.3862

 
       東京湾岸アンダー 3.
 
 
 
■ 911乗りの知人というかなんというかの話である。
 カエル目の空冷964は1万キロ毎にタペットの調整が必要になるという。
 その工賃が約6。
 ドウシタラヨカロ。
 それでも92年あたりのものが時々あらあらという速度で走っているのだから人生はお手入れであった。
 
 
 
■ トンネルの先でグリーンメタの964と並んだ。
 彼は眼鏡をかけた山崎勉さんに似ていた。
 先のT字路での荷重の懸け方が綺麗で、後輪2セットくらいは使ったのだと思われる。
 
 

2007年11月29日

「緑色の坂の道」vol.3861

 
       東京湾岸アンダー 2.
 
 
 
■ 帰り際、少し遠回りをした。
 港が見えるスポットがあるのだが、教えない。
 
 

「緑色の坂の道」vol.3860

 
       東京湾岸アンダー。
 
 
 
■ トランクに残っていたオイル缶を先に使ってもらう。
 夏場少し飛ばした後、0.5程減っていて当たり前のことだが廻せば燃える。
 不足すると少しだけガサガサして、半分はオイルで冷やしているようなところもあるからだった。
 
 

「緑色の坂の道」vol.3859

 
       外苑の西 5.
 
 
 
■ 忙中ということもないのだが、思い立って出先から首都高に乗った。
 オイルの交換と手洗いで水をかけてもらう。
 今入っているものが5-50wというエステル系のもので、確かによく廻るのだが、1シーズンを超えると雑味が出始める。
 特に夏を過ぎるとそのようだった。
 まだ3000には至らないが、12月は忙しい。
 
 

「緑色の坂の道」vol.3858

 
       外苑の西 4.
 
 
 
■ 最もシンプルな加湿器を四つばかり買って、銀座界隈は混んでいた。
 ばらばらに包装してもらい、トランクに積む。
 どうするのかと言えば、身内やその周辺にあげるつもりである。
 ちょっと色が悪いのだが、まあこんなものだろうと思っている。
 半分は消耗品に近い。
 
 

2007年11月25日

「緑色の坂の道」vol.3857

 
       外苑の西 3.
 
 
 
■ 交差点で停まっていると、斜め横の葉の色が綺麗だった。
 そういえば冬だ。
 プラタナスの枯葉は重い音で舞う。
 それから粉になる。
 
 
 
■ イブの夜だったろうか。
 深夜、表参道の坂道を加速していた。
 目の前にヒールの片方が落ちていて、ミラーを確認してからハンドルを振った。
 この時刻、黄色いタクシーが結構無茶をする。
 速度を殺してから思い直し、そのまま青山墓地界隈へ流れる。
 
 

「緑色の坂の道」vol.3856

 
       外苑の西 2.
 
 
 
■ この場合の地下とは比喩で、坂の昇り降りを指している。
 夜半、風が吹いてばらばらっと音がした。
 窓を開けているからだが、銀杏の樹が揺れている。
 
 

「緑色の坂の道」vol.3855

 
       外苑の西。
 
 
 
■ デリーの東。
 と書けば小説の題名である。
 11月は忙しく、地下に潜って仕事をする。
 
 

「緑色の坂の道」vol.3854

 
       Danny Boy 3.
 
 
 
■ いたしかたないので、口のぬるい予備のグラスで嘗めている。
 ソファの辺りで腹ばいになり、ノートPCで書いていた。
 これはネットに繋がっていない。
 OSは32bitのひとつの到達点であった2000のSP6である。
 テキストをUSBメモリに置く。
 何時だったかパンツの尻に入れておいて、車に乗り込んだらペキリと割れた。
 
 

「緑色の坂の道」vol.3853

 
       Danny Boy 2.
 
 
 
■ ショットグラスが割れた。
 指を切らなかったか。
 バカラではないそれは、確か恵比寿界隈で打ち合わせの後に見つけたことを覚えている。
 冬だったかな。
 
 

2007年11月15日

「緑色の坂の道」vol.3852

 
       Danny Boy.
 
 
 
■ 元はアイルランドの民謡である。
 JAZZの世界ではいくつも名演があって、ここに記すまでのこともない。
 ランダムに流していると、アイク・ケベックの後にそれがきた。
 街はそろそろクリスマスの支度である。
 
 

「緑色の坂の道」vol.3851

 
       糸の月 5.
 
 
 
■ 帝国の辺りで前がつかえた。
 そこから見上げると、月は細いまま僅かに上の方にある。
 腹が減ったな、と思いながら、携帯が鳴ったので脇に停める。
 月は少し赤い。
 
 

「緑色の坂の道」vol.3850

 
       糸の月 4.
 
 
 
■ 右へ右へという指示に従って駐車場を廻る。
 タイアのスキール音が響いて、床が滑らかだからだ。
 若造だった頃、私は駐車料金を惜しんだ。
 旨くゆくこともあったが、思い出すとムゴーイ目にあったことが何度かある。
 レッカーされた午後などは、ドウシタラヨカロという按配で婦警さんを逆恨みした。
 暫く牛丼が続くのである。
 
 

「緑色の坂の道」vol.3849

 
       糸の月 3.
 
 
 
■ 暫くそういうのを続けた後、それにも飽きてきた。
 遠くから石が飛んでくるだろうが、私は飲む打つ買うをやらない。
 我が国のゴルフも苦手で、誘われていくことはあるのだが、食堂でビールを飲んでいた。
 他にすることもないので、少し厄介な車に戻ってみたのだった。
 
 
 
■ 確かに手間はかかって、先日フォグが片方だけ点かなくなって入庫に三日。
 請求は二の線であった。部品代が1500円。
 手間賃高いよねえ。
 そう言ったんですけどねえ。
 とか言いながら、そういうものなのである。
 
 

「緑色の坂の道」vol.3848

 
       糸の月 2.
 
 
 
■ すこし歩いて地下に降り、車を探してうろうろした。
 上着を後部座席に放り投げる。
 昔、車なんてどうでもいいやと思っていた頃、それは今でもそうなのだが、そこには三脚やら資料のバックやらCDやその他大勢が山になっていた。
 気分はNYで眺めたショックの抜けたOHVである。
 たまには洗いなさいよ。
 雨降らないかな。
 
 

「緑色の坂の道」vol.3847

 
       糸の月。
 
 
 
■ 会合の帰り、空を見上げると月である。
 まだ若い妙齢の、足首から上のようなかたちをしている。
 そういえば11月だ。
 
 

「緑色の坂の道」vol.3846

 
       消えたベントレー 2.
 
 
 
■ 青山界隈の地下駐車場に入ると、ベントレーが2-3台駐まっている。
 AMGも911も、まあそうかね、という按配で、一体どうなっているのかとも思うが、人生とはそんなもので、東京の一部もそんなものである。
 
 
 
■ ブロック少し外れると、どうしてここにこれがあるの、と呟きたくなるサンクのミッドシップがいたりした。
 結構いい状態らしく、私は2秒だけ足をとめた。
 ヘッドランプはシビエの黄色である。
 仏では永くイエローのライトだったのだが、統合されて変わった。
 エレベーターで上に昇るとシトロエンのショー・ルームがある。
 パンツの細い背広を着た営業マンがクセジュ文庫だった。
 今は大学で教授を張っている奴の下宿にいくと、ビニールのかかったクセジュを読みながらラーメンを食べていて、私は土産の弁当を一緒に開いた。
 
 

「緑色の坂の道」vol.3845

 
       消えたベントレー。
 
 
 
■ 知人というかそういった間柄に、一つ前のXJRに乗っていた奴がいた。
 XJRというのは、ジャガーのちょっと速い奴。
 低くて平べったくて、後部座席は案外狭い。
 彼は私とほぼ同世代だと思うのだが、最後のところで確信は持てない。
 たまにボロボロの国産や伊の小型車で現れる。
 そういえば、古いサンクのバカラを乗り付けたこともある。
 私は「夜の魚」の二部「外灘」でいじっていたものだから、懐かしくて困った。
 
 

2007年11月13日

「緑色の坂の道」vol.3844

 
       夜の雲 4.
 
 
 
■ 緑坂の読者にはおそらく家族があるだろう。
 あれから10数年。
 離婚した彼もいれば、そうでもない彼女もいる。
 何時だったか電話がかかってきて、おい、おまえんとこでうちの娘使ってくれないか、と古い友人が言った。
 
 
 
■ うん、そうだなあ。
 そういうことになればいいがナァ。
 私は小津監督の映画を思い出していた。
 
 

「緑色の坂の道」vol.3843

 
       夜の雲 3.
 
 
 
■ 緑坂の3841は随分前に書いたものである。
 当時何をしていたのか。
 隣にいた顔はというと、思い出せないところもある。
 覚えているところもある。
 
 

「緑色の坂の道」vol.3842

 
       夜の雲 2.
 
 
 
■ 聞け万国のろうどうしゃ
 とどろきわたるメーデーの
(大場勇作詞)
 
 
 
■ 強い雨が降った夜、私は〆切前で漠然としていた。
 どうにか終わった頃、夜が明ける。
 今いるところから庭が見えるのだが、鳥はまだ眠っているようだ。
 
 

2007年11月11日

「緑色の坂の道」vol.3841

 
       夜の雲。
 
 
 
■ 冬の月を見上げた。
 線路の傍で、二人で歩いていた。
 駐車場があって、金網の向こうに背の高い樹が突っ立っている。
 葉はひとつもないけれど、その後ろには流れてゆく夜の雲がある。
「明るい夜だな」
「それより、寒いわ」
 
 
 
■ ひとつだけの駅を歩いた。
 途中には、メタリックなビルが幾つも並んでいた。
 空いている事務所があって、そこにベットを入れたら寒いのだろうか、等ということを考えている。
 
 

2007年11月10日

「緑色の坂の道」vol.3840

 
       Full Nelson.
 
 
 
■ 雨の夜、トロイメライを聴いていた。
 誰のピアノであるかは知らない。
 先日坂道を昇り降りしていると、向こうから下校途中の女学生の群れが歩いてくる。
 どこの制服か、近くにあるところなのだろう。
 
 
 
■ 午後の住宅街にゆくことはほとんどないが、時々庭先からたどたどしいピアノが流れてくることがあって、それはそれでいいんじゃないかなという気がする。
 
 

2007年11月08日

「緑色の坂の道」vol.3838

Photo Design / kitazawa-office
This file is created by kitazawa-office
No reproduction or republication without written permission

■パーソナルアドカード 「甘く苦い島 - Insula Dulcamara 」

「緑色の坂の道」vol.3837

 
      かけひき。
 
 
 
■ 相手がある場合と、自分や時間が対象の場合とがあって、面白いものだなと思う。
 大寒 小寒
 山から小僧が泣いてきた
 
 

「緑色の坂の道」vol.3836

 
      虫 3.
 
 
 
■ 先の緑坂のようなものは今は書けない。
 書かないと言ってもいいが、年齢も生活も違うからである。
 表現というのは概ねその基礎に状態のようなものがあるが、そこへゆこうとする時と、そこからやや引いた時とでは僅かに違う。
 
 

「緑色の坂の道」vol.3835

 
      虫 2.
 
 
 
■ まずまずの天気だったが、夜になった。
 予定をとりやめ、一日部屋にいた。
 電話なんぞをしている。
 飯もとりあえずすこし食う。
 
 
 
■ 窓を開けると、虫の声がきこえた。
 月は出ていないが、薄い風がある。
 椅子の背に躯をかけると、背骨がごきりと鳴った。
 
_____
 
 
■ 盲目の小さな女の子がこちらを視ているように思った。
「よう、元気か」
 と、答えようとしたが、髭を剃っていないことに気付いた。
 
 
―――――――――――――――
 
■ という緑坂を随分と前に書いた。94年の秋である。
 ある種、幻視のようなものだと言ってしまうとつまらなくなる。
 
 

「緑色の坂の道」vol.3834

 
      踵について 5.
 
 
 
■ 明日は厄介な打ち合わせがあるのだが、漠然としていた。
 品川駅の反対側にあるスーパーで買ってきた酒を嘗める。
 ワインセラーは素通りした。
 駐車場の案内係がこんなにいて、採算が取れるのだろうか。
 と、いぶかったが、客単価はそこそこである。
 それも仕事なのだが、一日地下にいることもある。
 そんなことを思い出しながら、このボールペン、まだ使えるだろうかと考えている。