更新:2月14日 11:00インターネット:最新ニュース
隠れた電波資源「ホワイトスペース」めぐり米で争奪戦
来年2月のアナログ放送停止を前に、米国では700MHz無線免許競売や移行認知キャンペーンなど、テレビ業界を巡るさまざまな動きが表面化している。なかでも特に注目を浴び始めているのが、無線LANより使い勝手がよいとされる周波数「White Space(ホワイトスペース・隙間周波数)」だ。グーグルやデル、マイクロソフト、インテルなど大手ハイテク企業がこの周波数の利活用促進を政府に訴え、携帯電話会社も参入を表明。放送業界は反対するなど、業界間での激しい攻防が続いている。(小池良次の米国事情) ■先端技術で未利用電波を活用 来年の2月17日、米国からアナログ放送が消え去る。既存テレビ局は「デジタル放送時代」を迎えるわけだが、心配の種も多い。その一つが、現在FCC(米連邦通信委員会)が進めている「ホワイトスペース機器(White Space Device・WSD)」の認定テストだ。 放送局は各社で固有のチャンネル(周波数帯域)を取得しているが、すべての局が全米すべてで事業を展開するわけではない。日本でも、地域によってチャンネル構成が違うように、米国でも使うチャンネルは限られている。つまり、地域ごとに使わないチャンネル(周波数帯域)が出てくる。これを米国ではホワイトスペースと呼んでいる。 ホワイトスペースを活用するといっても、それを実現するには複雑な技術が必要となる。この周波数を使ったWSDは、干渉問題を起こさないチャンネルを見つけて通信を行わなければならない。地域や場所によってデジタル放送のチャンネルは違うので、それを正確に把握して違う帯域を適切な出力で利用する。こうした技術をDynamic Spectrum AccessやShared Spectrum技術、環境認知無線通信などと呼ぶが、まだ研究段階で実用的な製品は出ていない。 WSDにとって、もう一つやっかいなのは、放送局が使う強力な業務用無線マイクだ。放送業界は、かねてからホワイトスペース帯域を業務用の無線マイクに利用してきた。これは政府が特別に認めたわけではなく慣例として暗黙の了解を得ている。その都度チャンネルを適当に選びながら利用するため、WSDにとってはゲリラのような存在といえる。 ■対立深まるハイテクVS放送業界
デジタル放送への移行を終了した後、連邦議会およびFCCはホワイトスペースの利活用を促進しようとしている。それを受け、ハイテク業界大手は「White Space Coalition(WSC)」という団体を設立し、WSDの試作機を作成してFCCの認定テストを受けている。 実は昨年もFCCは試作WSDの認定テストを行っているのだが、干渉を起こしたため認定を拒否している。このテストはWIA(Wireless Innovation Alliance)という団体が受けたものだ。一見違う団体のように見えるが、WIAとWSCの主要メンバー(マイクロソフト、グーグル、デル、ヒューレット・パッカード、インテル、フィリップス、サムスン電子など)は同じで、両者は一体で動いている。 FCCの認定テスト実施に対して放送業界は「デジタル放送への影響は避けられない」と反対の声を上げている。特に地方TV局を主要メンバーとするNAB(全米放送事業者協会)は、ワシントンで反対のロビー活動を強めており、ハイテク業界とのあつれきが高まっている。 これに対しWSCは「NABは消費者や政府をミスリード(不正確な情報提供)している」と非難しており、逆にNABは第1回試作機の失敗をとりあげ「不都合な事実を隠している」と反論している。大手スポーツリーグやブロードウエーの劇場なども反対派に回り、無線マイクの干渉への懸念を表明している。 一方、1月中旬に携帯電話業界もホワイトスペース戦争に参戦した。業界3位のスプリント・ネクステルと同4位のTモバイルUSAがFCCにホワイトスペースの利用申請を出したからだ。携帯電話業界は3.5世代から4世代へと高速化が進むにつれ、基地局から電話局までを結ぶネットワーク(集線網)に悩まされている。 従来、集線網はDSLやT1などのブロードバンド回線を利用してきた。しかし、携帯データの通信速度が10Mbpsを超えようとしているため、光ファイバーなどより高速な回線を利用しなければならない。そのため集線網のコストは上昇を続け、携帯事業者の重荷になっている。 特に業界2番手グループのスプリント・ネクステルとTモバイルUSAにとっては深刻な問題だ。そこでホワイトスペースの周波数を使って、光ファイバーなどよりも安い無線集線網を構築しようと考えたわけだ。もちろん、ハイテク業界は携帯業界の動きに反発を示している。 ■便利な帯域だが放送業界には不安の種
WSDが利用できるようになれば、一般消費者にとっては便利なツールに違いない。ホワイトスペースは雨や霧に強く、建物の中にも電波が浸透する。Wi-Fi(無線LAN)よりも使い勝手がよいホームネットワークが構築できる。WSD機能をパソコンやPDA(携帯情報端末)ばかりでなくテレビやDVR(デジタル・ビデオ・レコーダー)などのAV機器に内蔵すれば、やっかいな配線問題も緩和されるだろう。 一方、放送業界の懸念にも十分な理由がある。デジタル放送は、建物内や放送局から遠く離れた場所では受信がむずかしい。その特性上、アナログ放送のようにノイズが混じっても画面が映るというわけにはいかない。WSDとの干渉が起こるとすれば、そうした弱い受信地帯になる。トラブルが発生すれば、消費者は地上波アンテナを捨てて、CATVや衛星放送に移ってしまうだろう。 こうして考えると、WSDの実現は技術問題に集約される。周りの電波状況を正確に把握し、適切なチャンネルと出力を選んで通信する先端技術はまだ実用化されているわけではない。もちろん研究段階では以前から有望視され、ベンチャー企業も生まれている。しかし、WSDの場合は認証されれば一般に広く浸透する可能性がありその影響も広いため、FCCは慎重な態度を崩していない。 米ハイテク業界は携帯電話網のオープン化など、電波資源を一般大衆に広く開放しようと様々な挑戦を続けている。その一方で、携帯電話や放送局など電波特権を持つ業界は公益を理由に既得権益を守ろうとしている。FCCは両者の板挟みとなっているともいえる。 ◇ ◇ ◇
日本のアナログ停波は2011年7月24日と約3年半先の話だ。そのためかホワイトスペースに関する議論は持ち上がっていない。ただ、米国がホワイトスペースの利活用に真剣に取り組んで、WSDが実用化されることになれば、日本でも導入議論は華やかになるだろう。 もちろん、国土の狭い日本ではWSDに対する技術要求は米国以上に厳しいものになるが、実現できないわけではない。貴重な電波資源を「できる限り消費者に開放する」ことは時代の流れとなっている。 ● 関連リンク● 記事一覧
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