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社説:弁護士会 司法改革を後退させぬように

 日本弁護士連合会の次期会長に、司法制度改革を推進する現執行部の路線を継承する宮崎誠氏が選出された。だが、一騎打ちとなった会長選の結果(仮集計)は小差で、法曹人口の大幅増員と裁判員制度に反対する対立候補は、2年前の前回選挙よりも飛躍的に得票を伸ばした。

 法曹3者中最多の陣容を構える弁護士の多くが、裁判員制度のスタートが来春に迫る折も折、司法改革に批判的、あるいは懐疑的になっていることの表れとすれば、市民にもゆるがせにできない事態だ。

 選挙戦の大きな争点は、司法試験合格者の増員問題だった。政府は10年までに3000人に増やす方針で、すでに法科大学院の新設に伴って増員が始まっている。その結果、就職先の弁護士事務所が見つからない新人弁護士が増加。一方で、質の低下や過当競争を懸念する声が高まっているという背景があるためだ。

 宮崎氏も反対意見の広がりを考慮してか、増員のスピードダウンを打ち出しているが、改革の仕上げ段階に入って日弁連が方針を変更させるような事態となれば、影響は計り知れない。

 裁判所の敷居を低くし、司法による紛争解決の道を広げるには、法曹人口の大幅な増員は不可欠だ。多重債務問題などを例示するまでもなく、弁護士への潜在的な需要はまだまだ多い。新人の就職難も、割の良い仕事を目指して大都市での開業に集中するせいで、地方に活躍の場を求めれば就職口は少なくない。

 裁判員制度、被疑者弁護、刑事裁判での被害者の代理人、少年審判の国選付添人など新しい制度の導入によって、弁護士の出番が増えているのに、増員を抑制するのでは筋が通らない。既得権のパイを小さくしたくないとの発想に根差しているのなら、世論の納得は得られまい。

 もっとも弁護士らが改革の行方に不満や不安を抱いても、無理からぬ面はある。裁判所や検察庁の増員は遅々としており、増加した法曹資格者の育成を弁護士会が一手に引き受ける格好になっているからだ。日弁連などは新人採用の拡大に努め、公設の弁護士事務所の新設などにも力を入れているが、その分個々の弁護士の負担は増している。司法書士に簡裁での代理人業務の門戸を開いたことなどから、職域が狭まったとの意識も働いているようだ。

 改革の道筋を盤石にするには、法曹3者の一層の連携が必要だ。多くの弁護士が割を食ったと感じるようでは、成功はおぼつかない。短縮した司法修習の見直し、新人教育の基盤作り、就職難というのに弁護士が不足している法テラスのあり方の再検討なども進め、改革にそごが生じないように努めねばならない。

 民間法曹の日弁連が改革の先頭に立つことを、市民は期待している。

毎日新聞 2008年2月10日 0時06分

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