連続自殺の現場となった2階仮眠室。カーテンで閉ざされている(撮影:北澤強機) この交番では、じつは2007年12月13日にも男性巡査(23)が死亡していたことも発覚した。連続して20代の若い警察官が自殺するという「ありえない事態」に、さまざまな憶測が飛び交う「謎の事件」に発展している。 「再発防止策を講じてきたが、慚愧(ざんき)に堪えない。実効力のある対策を検討したい」 報道によると、舘野勝則署長はこう話しているといわれるが、防犯を担う警察とはいえ、民間企業でも、公務員でも、「自殺対策をする」などというのは、まともな話ではない。本当に同じ交番で、なんの因果関係もなく連続自殺するだろうか? 人が亡くなっている事件を掘り返すことは道徳的ではないかも知れない。だが市民を守るための拳銃で、(自分とはいえ)人をあやめているこの警官たちは犯罪的である。そもそも「たまたま連続で発生した」というのは納得しにくい。 極端な憶測をすれば、他殺の可能性もあるかも知れないし、相撲の「かわいがり」のような、精神を追い込むようなシゴキがあったのかも知れないと考えてもおかしくはないだろう。 ということで、現場へ行ってみた。 益子交番はレンガ作りの特徴的な建物。中には益子焼を展示するスペースもあった(撮影:北澤強機) 交番はすぐに見つかった。誤解を恐れずに言えば、なにもない町である。看板にも、ほかに記すランドマークがないために、交番がやけに大きく記載されている。 交番には「ただいまパトロール中で不在です」と書かれていた。そこでせまい町の声をひろいに行くことにした。 看板にもやけに大きく交番が記されている。こんな看板はこれまで見たことがない(撮影:北澤強機) 人とまったく行き会わない。冷たい雨が降る平日の午後、自動車でしか出掛けない地方都市ならではの習慣、それらを差し引いてもあまりに人が少ない。1時間で話ができたのはたった4組・5人だけ。しかも事件のことは知っているが、くわしい事情を知っている人には出会えなかった。 この閑散とした町である。交番勤務する若者が、将来に希望がもてなかったとしても不思議はない。文学的にいうところの「田園にひそむ狂気」が発生し、それが自殺の原因だったとしてもおかしくないとさえ思った。 日暮れ後の交番に、やっと2人の警察官が来て話をしてくれた (撮影:北澤強機) まず、この2人はともに穏やかな話し方で接してくれた。特に上司たるKさんは、予想していたシゴキをするような人には見えなかった。そして事件についての公式見解は「真岡署に聞くように」と言いながらも、かなり長時間にわたり対応してくれた。 まず、のろいや因縁といった報道がなされていることついてたずねてみた。しかし、これに対する返答はなかった。 考えてみれば同僚が亡くなったばかりである。興味本位の非科学的な質問に答えないのも仕方あるまい。ひょっとしたら直前までいた本署でも、ずっと尋問されていたのかも知れない。 仕事の悩みがあったのかを問うことにした。2軒あったパチンコ屋さんのうち1軒が撤退したことなどにからめて質問すると、そこに予想していたようなナワバリ争いのようなものは否定された。平和な町だという話だ。 それでは警察官が仕事にあぶれるほどヒマな町であるのか、と問うた。すると、交通事故案件が多く、忙しいという。Kさんは柔和な顔をキツく引き締めて語る。 「今年に入ってから真岡署管内で重大な交通事故が3件発生しています。そのうち2件は、この交番のエリアで発生しているために、気を引き締めて勤務しているところです。特に雪が降ってくると事故が多発する傾向にあるため、注意しています」 この交番の管轄エリアだけで連続して交通事故が連続発生した理由は、場所も別であることや、事故の様子にも関連性がないということだ。もちろん、のろいではないだろう。
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