法律科目の講義の目的は、「法律知識の伝達」から「法的思考能力の養成」にその重点を転換する。この転換に伴い、授業は「双方向性」をキーワードとする、教員・学生間の質疑・討論を中心とする方法によって行われる。
■ ソクラテス・メソッド
法科大学院教育は、少人数教育が基本であり、一クラスの学生数は50人程度となる。そして教員は、これまでの学部の講義のように一方的に説明せず、教員の質問と学生の回答の反復によって講義を進める双方向的な講義方法が利用される。このような方法は、一般に「ソクラテス・メソッド」と呼ばれている(注1)。「ソクラテス・メソッド」は、アメリカのロースクールにおいて開発された教育手法である。
この方法による場合は、学生は毎回の講義に、教員の指示に従った綿密な予習をして臨む。すなわち、判例・論文・参考資料などを編集した教科書(「ケースブック」と呼ばれる)の指定部分(一回の授業あたり数十頁)を予習し、メモを作って授業での議論に備える。
そして授業では、教員は学生を指名し、例えば、判例については事実関係のどこにどのような争点があるか、裁判所の理由付けをどのように評価すべきかを尋ね、さらに事実関係を変えた仮定的質問にも答えさせる。
教員は、最初に指名した学生の回答に満足しないと、次の学生に質問を振り向け、かくして延々と質疑が続いていくのである(注2)。
誰が指名されるかは分からないために、学生は恥をかきたくない限り、真剣に予習せざるを得ず、このような講義への出席により、法的に重要な事実を見分ける能力、結論を正当化し、あるいはそれに反論する論理を組み立てる能力、新しい状況に理論を適用する能力を養っていく。
■ ケース・メソッドとプロブレム・メソッド
「ソクラテス・メソッド」は、判例を題材に行われる時は、「ケース・メソッド」とも呼ばれる。
現実の判例ではなく、弁護士が実務で直面するような状況を示した、仮設的な問題事例を使用する方法は「プロブレム・メソッド」と呼ばれ、学生は、問題事例における依頼者の抱える問題の解決を、参照判例・制定法などを考慮しながら考えて講義に臨む(注3)。
「プロブレム・メソッド」も、教員と学生の対話によって授業が進められる点に変わりない。これらの方法では、法曹に必要な体系的知識の学習の相当部分は、教室外における学生の自主的努力に委ねられる。知識の伝授を重視しないことは奇異に感じられるかもしれないが、法科大学院は大学院レベルの教育機関であり、現在の法学系大学院も、特に知識伝達のための講義は行っていないことを考えれば不思議ではない。学生は、知識については自分で教科書を読むことによって、十分修得できるのである。
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